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日本の市販で売られているものとは違い皮と肉がそれぞれ適度に弾力を持っている。
構わず前歯を推し進めるとブツンッ!と弾ける様な音と共に中の肉汁が飛び出してくる。
火傷こそしないものの、出来立てならではの暴力的でさえある肉の味わいと香りが押し寄せてくる。
肉自体に味付けをしたのち、桜のチップ等で熱薫をしているのだろう。
肉汁に負けず劣らず適度に香りを主張してくる。
またそれを支えるパンも考えられている。
持ち手となる外側は適度に焼き目を入れしっかりと持っていられるが、内側はしっとりとしているためソーセージの邪魔をしない。
食べ進める度にあふれ出る肉汁を受け止め、小麦の甘さと共に口の中をぬぐっていくのだ。
元々脂身は少ないのでそこまでくどいと思ったことはないのだが、野菜などの具材はない。
一息つくためにもグラスを傾ける。口の中が紅茶の味と共にリセットされてゆく。
ホットドックを食べ終えた彩斗は間髪入れずに茹でソーセージに切り替える。
こちらはドイツではヴァイスヴルストと呼ばれ、日本では白ソーセージの名前で知られている。
ナイフとフォークを使い皮に切れ目を入れ中身を食べるタイプだ。
なぜなら先ほどの焼いたソーセージとは違い、皮の鮮度が高いうちに作られるため嚙み切ろうとしてもゴムの様にいつまでも口の中に残ってしまう。
中身は先ほどとは変わりパセリやレモン、カルダモンと言った香辛料を独自の割合で混ぜ込んでブイヨンで10分ほど煮込むため真っ白になるのだ。
こちらもナイフを差し込んだ瞬間にビュッっと肉汁があふれ出す。
スープの上にさらさらとした脂が流れてゆくそれは見ていて飽きないのだが、食べないわけではない。
この店ではパセリなどの彩りもそこそこに、タマネギとスパイスの量が多めなのが特徴だ。
口に運ぶと豚肉の旨味がフワリと広がる。
茹でてあるため、身の水分が飛びきらないため焼いたものとは違った旨さがある。
一緒に仕込まれていたタマネギの甘みと一緒くたになって口の中にジワリと広がる。
そして胡椒を始めとする様々なスパイスが全体をしっかりと印象付けてくれるため二口、三口と食べても食べ飽きないのだ。
あぁ、やはりここにきて正解だった。
もうオリンピックとかどうでもいい。
ある種の幸福感に満ちた彩斗はふと視線を感じて横を向いた。