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正直これ以上騒いで懐かしい空間を壊して欲しくないこと。
そろそろ自分の食事であろう時間にゆっくりと味わえないのが嫌なので、それとなく席を立ち両者の間に入る。
2人ともそれぞれ一瞬怪訝そうな顔こそしたものの、次の瞬間にはそれぞれ別の表情を作った。
ナンパ男の方は邪魔をするな、こっちは気が立ってるんだからな。とでも言わんばかりに睨み付けてくる。
対して彼女は彩斗が新手のナンパなのか、寧ろ一緒に殴っちゃえばいいかな。とでも言わんばかりに笑顔になった。
やっぱ笑顔が綺麗な人だと彩斗は思った。
相変わらずカウンターの下で両手をわきわきさせているのが見えなければもっとよかったのだが。
するとナンパ男は顔にしわを寄せながら首から上だけを彩斗の方に向けた。
「なんだ、ガキ?お前この女の知り合いか?違うんなら邪魔だからどいてくんねーかなぁ?」
あっ、そうですか。それは失礼しました。
なんて言う訳ないが、これ以上ここで騒ぎを大きくをする気は更々ない。
身体を男の方に向け、右の内ポケットからPMCの証明バッジと顔写真付きの手帳を見せる。
「この女性の知り合いではないが、俺は静かにここの飯が喰いたいんだ。これ以上騒ぐようなら民間軍事法に乗っ取り拘束および連行させて貰うけど、いいのか?」
彩斗はそう言いながら空いている右手を腰に持っていく。
その行為で両者ともに彩斗が帯銃していることに気が付く。
法律では銃は必ず見える位置に配置し、弾薬を装填していない事・セーフティが必ずかかっている事などの細かい制約が多い。
しかし、細かい規約を知っているのはPMC関連か政治家や法律家がほとんどである。
案の定ナンパ男は一瞬で顔を青ざめて、今まで後ろでオロオロしていた気の弱そうな友人を連れて店の外へと駆け出して行った。
これでとりあえずはこっちは済んだ。
あとはブロンドの彼女に説明を、と振り返るとまたしても表情が変わっていた。