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アマリリスと狼  作者: 鷹弘
第1章◇アマリリスと狼◇
6/53

番外編◇クリスマス・ミッション◇

話が全然進んでいないのに、クリスマス話。書きたいだけです…

 十二月二十四日。

 サンタとかいうジジイが子どもの居る家に不法侵入して、プレゼントを置いていくと言われる日。言い方に刺があるって?そんなことないさ。

 ところで話は変わるが、今日の森には猛吹雪がやって来ている。サンタなんて森に一歩も侵入させないぜ、と言わんばかりのやばさ。荒れている。そして、静かに暖炉の中で薪が爆ぜる音のする我が家でも__



「クリスマスなんて滅びろ」



 ある意味で吹雪が発生していた。発信地は、暖炉の前でお馴染みの真っ赤なストールを纏っているノエだ。

 どうやら、理由は不明だが、ノエはクリスマスを酷く嫌っているらしい。さっきから、暖炉の前で永遠と、“滅びろ”と唱え続けている様は、絵本とかに出てくる魔女を連想させる。


「なんで滅びろなんだよ。そりゃ、お前は十六歳だからそんな行事、子どもっぽいとか思うのかもしんねーけど、何も滅ぼす必要は無いだろ」


 あまりにも恐ろしい後ろ姿に、つい声をかける。

 すると、さっきまでコチラに見向きもしなかった彼女は、くるりと方向転換をし、暖炉を背後に俺の方へと体を向けてきた。


「クロードお兄さん。貴方は、サンタ殿を見た事はありますか?」


 普段呼び捨ての俺の名前に、“お兄さん”なんて付けるから何事かと思っていたら、全く想像もしていなかった質問をされた。それと、全くどうでもいいことだが、俺は二十四年間生きてきて、サンタの敬称に“殿”を使う奴を初めて見た。


「質問が悪かったですか?ならば言い方を変えましょう。クロードお兄さんは、サンタ殿に対してお手紙を書いた事は、またそれを直接お渡しになったことは、ありますか?」


 突然の質問に対して固まっていた俺の様子を、質問が理解出来ていないようだ、と判断した彼女は再度、形を変えて、俺に質問してきた。


「えっ……と。色々ツッコミたい所はあるんだけど、順番にいこう。まず、その“お兄さん”ってのは、なんだ?」


 一旦落ち着くために深呼吸した俺は、額に手を当てながら、出来るだけノエの顔を見ないようにしながら質問をしていく。


「ん……、質問をしたのはこちらが先なのですが……。まァ、いいです。何故、“お兄さん”と呼ぶか、でしたか?理由は特にありません。しいて言うなら、折角の聖夜ですので、今日くらい形だけは敬って差し上げようと思っただけです」


 この、十六歳……。今日くらいは、って事は普段は全然敬ってないってことじゃねーかよ!

 しれっ、とした顔で悪意たっぷりの返答をよこしたノエに心の中で悪態をついてから、次の質問へ。


「次に、サンタ殿ってなんだよ、“殿”って」

「何って、貴方よりも敬う必要性のある方だから、敬称に気をつけているだけです。彼は今夜、不眠不休で空を飛び回って、子どもたちに夢と希望の詰まったプレゼントを届けるのですから」


 またもや、俺を貶しやがった。

 しかし今回俺が引っかかったのはそこじゃない。


「ノエさん……?もしかしてサンタの正体とか、知らない感じ……?」

「正体、ってなんです?サンタ殿は心優しきお爺様です」


 なんてこった。この十六歳、未だにサンタさん信じちゃってる感じの子だ。


「ちなみに、サンタ殿は、妻に先立たれた、悲しき過去を背負う六十二歳のトナカイの調教師を生業としていた、人類が空を飛ぶ術を世界で初めて発見した男性、です」


 しかも設定がやけに細けェ。誰だよ、こんな戦闘と肉しか興味無さそうな女の子に、変な設定付きでサンタの存在教えた奴。


「更にちなみに。コレは私の相棒である、シオンが教えてくれました」


 あいつか!

 余計な事を教えた奴が誰か分かるや否や、俺は今すぐ、無駄に良い、低い声で「面倒くせェ……」とか言っている、ノエの相棒であるギロチンをぶん殴りたい気分になった。実際殴ったら、肉の体を持つ俺にしかダメージがないのは明白だから、絶対にやらないが。

 だが、そこで。ふと、俺は疑問が湧いた。


「なァ、ノエ。そんなにサンタを、「サンタ殿」……、サンタ殿を尊敬してるなら、なんで彼の一番の活躍できる日である今日を、恨むんだ?」


 細かい訂正を入れる彼女にあえてツッコミを入れず、疑問を口にする。

 今日一日、ずっと何の罪も無い暖炉に向けて、滅びろとか言ってたにしては、コイツはサンタを神聖視し過ぎている。


「そんなの、決まってるじゃないですか」



「サンタ殿は、その子どもの実家のクリスマスツリーの下にしか、プレゼントを置いていけないのですから」



 ……。


「ん……?ごめん、俺の理解力に問題があるんだな。もう一回説明してくれ」

「ですから、彼は不眠不休で、尚且つたった一晩で世界中の子どもたちにプレゼントを配らなければなりません。そうなると、より効率の良い方法が求められます。

 彼は悩みました。妻の葬儀のアレコレよりも悩みました。より多くの子どもたちに、平等に配るにはどうしたら良いのか。中には他国などに家族で旅行する子もいるでしょう。その場合、サンタ殿はどこに届ければ良いのか、確認しなければなりません。不確かな情報だと、子どもたちにバレてしまいます。隠密な行動も彼には求められているのです。

 苦悩の末、彼が導き出した答えは、実家に居る子どもにのみ配る、です」


 いや、それ平等じゃねェじゃん!

 腕を組みながら、俺に対して長々と“設定”を語ってくれた彼女には申し訳ないが、それって実家にいない子にはあげないっていう不平等が発生してるだろ。平等をスローガンに頑張った彼はどこに行った。


「ですから、今【紅狼】殺しにこの森で生活をする私はプレゼントを貰える条件を満たしていません……。それなのにクリスマスという行事が行われるのは、些か腹立たしいので、いっその事滅びないかなー、って思ったんです」

「発想が物騒だ!」


 ようはアレだろ?プレゼント欲しいって事だろ?なら、最初から言えよ!

 話しを終えたノエは、再び暖炉に向き直ると、滅びろと呟き始める。

 ……、どうしたものか。



   ***



《ダダダダダッ》



 翌日、俺の二十五日(クリスマス)の朝は、騒がしく廊下を走る音から始まった。


「クロード!さ、さ、さんた……。サンタ殿から……!」


 普段は、包丁、もしくはフライパンとお玉も持って、俺に気づかれないように忍び寄って起こすのがデフォルトの彼女にしては珍しく、ドアを勢いよく開け、部屋に飛び込んできた。その表情は、コレまた珍しく、いつもの無表情とは違い、ほんのり薔薇色に染まった頬に僅かに上がっている口角と、年相応の幼さを表している。

 そして、ドアを開けたのとは反対側の彼女の手には真っ赤なリボンで包装されたプレゼントが握られている。


「おー、落ち着け。どうした」

「今朝、枕元にコレが!それと、メッセージカードも!」


 そう言ってノエは、俺に対してプレゼントとカードを突きつける。

 カードにはただ一言、



《Merry Christmas S》



 とある。筆跡は俺のとは似つかないほど達筆な雰囲気だ。


「おそらく、この大文字のSは、サンタ殿のSでしょう……。しかし何故、ツリーどころかクリスマスパーティも行っていない、こんな湿気た家までプレゼントを……」


 おーおー、殴るぞこのガキ。

 その後も、顎に手を添えながら、この家がいかに、クリスマスという雰囲気が似合わないかを考え続けた彼女に声をかける。


「あー、実はサンタは俺の爺さんの知り合いなんだ」

「えッ!!」


 風音がするくらい勢い良くコチラを振り向いた彼女の目は、本当に珍しい。大きく見開かれていた。


「な、な……。あのサンタ殿と、知り合い……?貴方が?」

「俺の爺さんが、な。お前があまりにも、詳しく教えてくれるから思い出してな。まァ、お前は村のために、【紅狼】を殺しに一人、森へとやって来たいい子だったからな。急いでサンタの所にお前の居場所を教えて、特例ってことでココにプレゼントを送ってもらったんだ」


 分かったか?

 俺が話終えると、ノエはぽかん、とした表情の後、はっとしてから顔を引き締め直して、俺に対して腰を九十度に曲げる。


「ありがとうございました。【紅狼】に対して【赤ずきん】がお礼を言うなど、本来ならあってはならないでしょうが、貴方は正確には【銀狼】ですし、一応、協力関係ですので」


 律儀な奴だ。

 お礼を言い終えた彼女は、プレゼントの中身を見てくる、と来た時よりは少し控え目な小走りで自室へと去っていった。どうやら、ココに来るまで中身を確認していなかったらしい。



   ***



 さて、彼女に届いたプレゼントだが。もちろん本当にサンタからな訳ない。そもそもウチの爺さんがそんな存在と知り合いだなんて聞いたこともない。

 昨日の彼女の落ち込んだ__見ようによっては魔女ような__姿を見せられて、放っておけるほど俺は無情じゃ無かったらしい。

 男にしては、器用な部類に入っている俺は、昨夜コッソリと家を抜け出して、森に住む『人間じゃない奴ら』の営む闇市へと向かった。そこに売っていた、赤いリボンと、同色の包装紙。プレゼントとして、糸を編み込んで作った腕輪を買った。所々にカラフルな水晶にも似た石が共に編まれていたので、多分女に嫌がられはしないだろう。

 家に帰ってからは、腕輪を包装紙に包み、丁寧にリボンでラッピングする。さて、彼女の部屋に置こうとした時、物足りなさと不安を感じた。

 枕元にぽんと置かれた、ただの真っ赤なプレゼントを見て、あの戦闘狂少女は何を思うだろうか。あまり好意的な印象は持たないだろう。そして次に考えるのは、誰がコレを枕元に置いたのか。一番疑われるのは、共に生活をする俺だろう。しかし、そうすると折角の作戦が台無しになる。

 そこで、俺が無い頭を捻って出した結論は、サンタだと思い込ませることだった。あそこまでサンタを盲信しているなら、何か決定的な物があれば、サンタからだと思い込むだろう。そして、作ったのが、あのメッセージカードだ。普段は書かないような、バカ丁寧に文字を綴った。名前は迷った末に、頭文字(イニシャル)で落ち着いた。

 そして保険として、俺の爺さんが知り合い説も作っておいた。

 一番の難関だったのは、いかにアイツに気づかれないよう枕元に置くかだった。何せ、少しでも物音を立てると、寝息が止まり、部屋は静寂に包まれる。ゆっくり時間をかけた結果、気づかれずに済んだが、あれは奇跡と言っても過言では無い。

 そんなこんなで、俺のクリスマスミッションは幕を閉じた。



   ***



「クロード!腕輪でした」


 朝食の準備をしに、リビングへ向かうと、先に到着していたノエが、早速腕輪を付けた自身のソレをこちらへ見せる。

 さっきよりは格段に落ち着いているとはいえ、やはり彼女の声は普段よりも楽しげで、頬の薔薇色は消えていなかった。


「おー、良かったな」

「はい。本当にありがとうございました」


 彼女は再び俺に頭を下げる。普通に身長差のため見下ろす以外で、彼女のつむじを見る機会は無い。少しだけ、特別な気分だった。


「さて、じゃあ朝飯にするか。今日は折角のクリスマスだし、朝からチキンだ!」


 普段の俺が聞いたら卒倒するような、ジャンクなメニューも、今日はすんなりと言える。肉好きの彼女は目を輝かせて、皿出しなどを手伝いに来る。



 彼女の普段とは違う一面も見れたし、存外、サンタの存在も馬鹿に出来ない。

 聞こえないはずの、彼女の村で鳴っているだろう、軽やかなベルの音。ソレが森に響き渡っている気がする。いつの間にか、昨日の猛吹雪はやみ、空は晴れ渡っていた。

 それでは、



《Merry Christmas......》

思いつきで書いたので、かなり内容はやばい気がしてなりません(汗)しかも日付変わっちゃってるし……。

さて、これからものんびりと更新を続けていきたいと思います!でも次に書くのはお正月話かな?また番外編*笑*

来年度もぜひ、ノエとクロードの応援、お願いします!よい、クリスマスを!

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