◇14話◇まずはお着替え、次には腹ごしらえ
めっっっっっちゃ!久々な本編更新です。良ければ最後までどうぞ……
「__ちゃん……ェちゃん!ノエちゃん!」
声が、した。
ノエが目を覚ますと、視界いっぱいに美女がいた。否、それは死の女王__ヘルの顔だった。彼女の横には、眉を寄せて心配を全面に顕にした自称・正義の塊、アザナ。そして、涙で顔面がぐちゃぐちゃとなったリルだった。
「……ヘル……さん……」
声は掠れていた。自分のものとは思えない声で、発声できているのかいないのか一瞬わからなかった。
「良かった、戻れて……」
「……!クロードは!?……あ、あとカロンも!」
ついでのように付け加えられたカロンに対するものだろうか。少しだけ哀れんだような表情をした後、ヘルは顔を引きしめた。
「なんとか……って感じ。カロン君は多分もう間もなく起きるはずよ。ただクロードは……」
そこで言葉を切ると、彼女はそっと顔を下げる。ノエは心臓がザワつくのを感じ、まだ気怠さの残る身体を無理に起こし、ヘルを押しのけようとした。
「どこに行くの!?」
「クロードのもとへ!この私が、直々に起こしに行ったのです!早く目を覚まして貰わないと行き損です!」
ぐらつく足元に気が付かない振りをして、一分でも、一秒でも早く彼のもとへ行こうとした。
が、
「落ち着け」
手首に軽い衝撃を感じる。掴んできたその手の強さが、まだどこか宙に浮いていたノエの意識を引き戻した。手を辿り視線を上にあげると、先程まではいなかったはずのカロンが立っている。
「……カロン、その手を今すぐに離してください」
「……【狩人】の役目は、【赤ずきん】を守ること」
ノエの静かな怒りに応えることなく、彼はボソリと呟く。
幼い頃から幾度となく聞かされた文言に、彼女は柳眉を顰める。
「お前は今、魂が抜けてた状態……だったんだよな。オレもだが。普通じゃ体験しないような状態だ。当然、身体に異変も起きてるだろ」
「元気です。熊でもワニでも倒せます」
「そうか。けど、今足がふらついてた。ベッドから降りるのもいつもより遅い。なんならオレの手に気が付かなかった時点で、いつも通りじゃないのは明らかだ」
一瞬会話に挟まれた、この雰囲気とは全くもって合わない流れを気にするのは、部外者であるヘル達だけだ。当人達は平然と言葉を繋げる。
「確かに、カロンの言い分も当然です。私は現在、通常よりはパフォーマンスが落ちている状況でしょう。ですが、それが?」
ノエは目を丸く開き、ただただ目の前の少年に問いかける。
自分の体調が優れないことで、貴様に何か迷惑でも掛かるのか。己の身は所詮己で守るしかない。そこに貴様の責任を感じるなど、頭が高い。
表情が、そう物語っていた。ヘルをはじめとした周囲の人間は、それに肌が粟立つ何かを感じた。たかが人間の、たった一言はそれだけの力を含んでいる。
「……」
カロンの言葉は、続かない。ノエはそれを返答とした。
「もういいですか。そもそも、現在この城には敵はいないのですよね」
「え?え、えぇ。いないわよぅ……」
急に話を振られたヘルは、それでもなんとかあくまでいつもの振る舞いのまま返答する。その返しにノエは一つ頷き、足を扉へ向ける。
「まず!」
と、その足を再び止める声が響いた。
煩わしそうに振り向けば、やけに真剣な表情をして、彼はこちらを見つめる。
「まず、服を着替えよう」
そこでようやく、自身がクロードの中に潜った時と違う服装になっていることに気がつく。それまでの赤い装いではなく、サラリとした生地のネグリジェだ。恐らくだが、この城の誰かに着替えさせられたのだろう。
……だが、そんな時間すら今の彼女には惜しい。どうしても一目見て安心をしたかった。彼が生きていることを、確認したかった。
「リリーの気持ちは、わかる。オレだって直ぐに行きたい」
彼はあくまで彼女の気持ちを汲んだまま話を続ける。
「けど、オレもお前も身体はもちろん、精神的にも疲れてる。その状態でもしフェンリルが起きてみろ。むしろ心配かけるだろ、あいつ中身オカンだし」
そんな、唐突にそれまでの空気を蹴散らすような気の抜ける言葉選びに、無意識的に強ばっていた肩から力が抜けるのを感じた。確かに、そうだ。彼の性格だったら、自分よりもこちらの心配をしてきそうだ。
「……わかりました。着替えましょう。あと、ついでに食事、軽食で構わないので頂けますか。腹が減ってはなんとやらです」
いつもの調子に戻り始めた二人を見て、ヘルはホッとした表情を浮かべる。しかしそれも一瞬のこと。瞬きをした次には、いつも通りの緩んだ顔で笑いかけてくる。
「そしたらぁ、まずはお洋服!その次にみんなで、ご飯食べましょ!クロードが起きたら羨ましがるくらい、とびきり素敵な軽食を、ね」
次はようやっと久々、現在軸の主人公が出てくる!……はず




