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アマリリスと狼  作者: 鷹弘
第2章◇珍種売買と狼◇
52/53

◇14話◇まずはお着替え、次には腹ごしらえ

めっっっっっちゃ!久々な本編更新です。良ければ最後までどうぞ……

「__ちゃん……ェちゃん!ノエちゃん!」

 声が、した。

 ノエが目を覚ますと、視界いっぱいに美女がいた。否、それは死の女王__ヘルの顔だった。彼女の横には、眉を寄せて心配を全面に顕にした自称・正義の塊、アザナ。そして、涙で顔面がぐちゃぐちゃとなったリルだった。

「……ヘル……さん……」

 声は掠れていた。自分のものとは思えない声で、発声できているのかいないのか一瞬わからなかった。

「良かった、戻れて……」

「……!クロードは!?……あ、あとカロンも!」

 ついでのように付け加えられたカロンに対するものだろうか。少しだけ哀れんだような表情をした後、ヘルは顔を引きしめた。

「なんとか……って感じ。カロン君は多分もう間もなく起きるはずよ。ただクロードは……」

 そこで言葉を切ると、彼女はそっと顔を下げる。ノエは心臓がザワつくのを感じ、まだ気怠さの残る身体を無理に起こし、ヘルを押しのけようとした。

「どこに行くの!?」

「クロードのもとへ!この私が、直々に起こしに行ったのです!早く目を覚まして貰わないと行き損です!」

 ぐらつく足元に気が付かない振りをして、一分でも、一秒でも早く彼のもとへ行こうとした。

 が、

「落ち着け」

 手首に軽い衝撃を感じる。掴んできたその手の強さが、まだどこか宙に浮いていたノエの意識を引き戻した。手を辿り視線を上にあげると、先程まではいなかったはずのカロンが立っている。

「……カロン、その手を今すぐに離してください」

「……【狩人(シャスール)】の役目は、【赤ずきん】を守ること」

 ノエの静かな怒りに応えることなく、彼はボソリと呟く。

 幼い頃から幾度となく聞かされた文言に、彼女は柳眉を顰める。

「お前は今、魂が抜けてた状態……だったんだよな。オレもだが。普通じゃ体験しないような状態だ。当然、身体に異変も起きてるだろ」

「元気です。熊でもワニでも倒せます」

「そうか。けど、今足がふらついてた。ベッドから降りるのもいつもより遅い。なんならオレの手に気が付かなかった時点で、いつも通りじゃないのは明らかだ」

 一瞬会話に挟まれた、この雰囲気とは全くもって合わない流れを気にするのは、部外者であるヘル達だけだ。当人達は平然と言葉を繋げる。

「確かに、カロンの言い分も当然です。私は現在、通常よりはパフォーマンスが落ちている状況でしょう。ですが、それが?」

 ノエは目を丸く開き、ただただ目の前の少年に問いかける。

 自分の体調が優れないことで、貴様に何か迷惑でも掛かるのか。己の身は所詮己で守るしかない。そこに貴様の責任を感じるなど、頭が高い。

 表情が、そう物語っていた。ヘルをはじめとした周囲の人間は、それに肌が粟立つ何かを感じた。たかが人間の、たった一言はそれだけの力を含んでいる。

「……」

 カロンの言葉は、続かない。ノエはそれを返答とした。

「もういいですか。そもそも、現在この城には敵はいないのですよね」

「え?え、えぇ。いないわよぅ……」

 急に話を振られたヘルは、それでもなんとかあくまでいつもの振る舞いのまま返答する。その返しにノエは一つ頷き、足を扉へ向ける。

「まず!」

 と、その足を再び止める声が響いた。

 煩わしそうに振り向けば、やけに真剣な表情をして、彼はこちらを見つめる。

「まず、服を着替えよう」

 そこでようやく、自身がクロードの中に潜った時と違う服装になっていることに気がつく。それまでの赤い装いではなく、サラリとした生地のネグリジェだ。恐らくだが、この城の誰かに着替えさせられたのだろう。

 ……だが、そんな時間すら今の彼女には惜しい。どうしても一目見て安心をしたかった。彼が生きていることを、確認したかった。

「リリーの気持ちは、わかる。オレだって直ぐに行きたい」

 彼はあくまで彼女の気持ちを汲んだまま話を続ける。

「けど、オレもお前も身体はもちろん、精神的にも疲れてる。その状態でもしフェンリルが起きてみろ。むしろ心配かけるだろ、あいつ中身オカンだし」

 そんな、唐突にそれまでの空気を蹴散らすような気の抜ける言葉選びに、無意識的に強ばっていた肩から力が抜けるのを感じた。確かに、そうだ。彼の性格だったら、自分よりもこちらの心配をしてきそうだ。

「……わかりました。着替えましょう。あと、ついでに食事、軽食で構わないので頂けますか。腹が減ってはなんとやらです」

 いつもの調子に戻り始めた二人を見て、ヘルはホッとした表情を浮かべる。しかしそれも一瞬のこと。瞬きをした次には、いつも通りの緩んだ顔で笑いかけてくる。


「そしたらぁ、まずはお洋服!その次にみんなで、ご飯食べましょ!クロードが起きたら羨ましがるくらい、とびきり素敵な軽食を、ね」

次はようやっと久々、現在軸の主人公が出てくる!……はず

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