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アマリリスと狼  作者: 鷹弘
第2章◇珍種売買と狼◇
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番外編◇エカルラート兄妹の誕生日◇

エカルラート兄妹誕生日


「サンタ殿……今年もこうして、生誕日を迎えられたこと感謝致します……」


 こいつはサンタクロースを神かなにかだとでも思っているのだろうか。

 窓辺に向かって手を組んでるノエを見て、俺は最早呆れの声も出ない。

「リリー、さっさと準備しようぜ」

 彼女の奇行には慣れきっているのか、平然とした態度で接するカロンには尊敬の念を覚える、いや全く。

 本日、十二月二十五日は現役【赤ずきん】であらせられるノエ・エカルラートの誕生日だ。そして、彼女の誕生日を祝うのは、本来は獲物である筈の俺こと、【紅狼(フェンリル)】__正確には【銀狼(フローズ・ヴィトニル)】__のクロード・アルジャンだ。そして、彼女の幼馴染にして【狩人(シャスール)】のカロン・カルヴァンだ。

 ……なんて、どこぞの小説冒頭宜しく自己紹介してみたが、要は「誕生日兼クリスマスパーティはいつもの三人組でやるぜ」って話なんだがな。

 さて、最初の言葉でわかるように、あの窓辺の十六歳児はサンタクロースの存在を未だに信じ続けているのだ。当然、俺は現時点では空想上の存在であると思っている。ので、プレゼントなんかはこちらで用意しなければならない。全くもって面倒だ……。

「とか言いながらフェンリルは用意してるんだよな……」

「人の回想に入ってくんな」

「全部声に出てたぞ」

 ……マジか。

 幸い、十六歳児(ノエ)には聞かれていなかったらしい。良かった、もっと面倒くさいことになるところだった……。


 なんて、しょうもないことしてる暇は無いんだった。

「ノエ、早く行ってきてくれ」

 俺の呼び掛けに、窓から部屋に視線を移した彼女は、

「……」

 あからさまに顔を歪めた。

 端正なその顔を、これでもかと言うほど歪め、不満を顔面で表現する。

「そんな顔をしてもダメだ。大体、お前が零したんだろ」

「そうですが……」

 自身の言動を覚えてはいるが、それでも煮え切らない態度は崩さない。

 彼女が渋るその理由は、


「兄さんを呼ぶなんて……」

「一日違いの誕生日だろ。折角なら一緒に祝えよ」


 彼女の兄、イヴ・エカルラートの招待だ。何を隠そうこの兄妹、誕生日が一日違いなのだ。十年違いの。ピッタリ十年ってのも凄いよな。

 これは昨夜のノエの呟きだった。


『今日……兄さんの誕生日ですか……』


 ……いや、これはフラグだろ。

 元々、明日はノエの誕生日だな、クリスマスパーティもしようって話をした直後だぜ? 『誘おう』ってなるだろ。

「ノエ、お前が言い出しっぺなんだから、お前が誘うのが筋だろ」

「でも……獣が出るかも」

「お前が獣如きに負ける訳無ェだろ!?」

 俺に初っ端から銃突きつけた奴が何言いやがる!

「失礼な!私はか弱き乙女ですよ!」

「いいか、か弱き乙女は容赦なく人に銃を向けないんだよ」

 そう言い返すと、ノエはぶすくれた顔をして黙る。

 言いたいことは分かる。この兄妹に確執があるのも理解してる。が、

「今日くらい良いだろ。何もかも忘れても」

 俺の言葉に、真顔でこちらを見る彼女。

 この兄妹は、互いに後ろめたい思いを抱えている。片や、自身の役目を押し付けてしまったこと。片や、自身の存在で相手を居ないものとしてしまったこと。…………それがなんだ!

「今日は聖夜だろ? 特別な日なんだ、全員特別な存在。普段のお前と今日のお前は少し違う」

 だから気にしなくていい。

 それが伝わったのか、強ばらせていた表情を和らげた彼女は、無言で扉に向かう。

「あ、リリー!」

 カロンの声掛けに、ゆっくり振り返る。

「飾りまだだからゆっくりな!」

 その言葉に破顔し、

「あんなシスコンと長時間なんて、ごめんですよ」

 そんな悪態を付く。


 その後、普段より倍近く時間をかけて戻ったエカルラート兄妹が、大量の兄からのプレゼントで隠れながら帰ってきたのはご愛嬌。

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