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アマリリスと狼  作者: 鷹弘
第2章◇珍種売買と狼◇
42/53

◇7話◇俺は狼ですッ

 アザナさんへの正式な自己紹介が終わった次の日。流石は女王と言うか、ヘルは大量の行方不明者の私物を完璧に準備していた。

「さぁて、それじゃああとはワンコなクロードの出番ねぇ」

「ワンコじゃねェ」

 この屈辱的な呼び名は言わずもがな、ノエのせいだ。

 ちなみにその本人は知らぬ存ぜぬと、顔を明後日の方向に向けている。……この野郎。



   ***



 そして、例の路地。改めて、昨日の小人のぐったりとした様子が頭をよぎる。

 そんな俺の心中を知らないノエは地面を指差しながら言う。

「では、クロード」

「おう」


「犬のように這いつくばって、匂いを覚えてください」

「言い方ッ」


 こんな時でも、ノエの毒舌は絶好調とか、なんの冗談だよ……。

 しかし、それしかやり方が無いので地面に伏せるように鼻を近づける。ノエの言葉があったからか、みんな微妙な空気になってるのが何となく分かる。なんか泣けてきた……。

 雨などは降っては居なかったが、やはり街中だから色んなやつの匂いが混ざっている。男・女、年寄りに、若者らしき匂い。

 どれだ……、どれがあの被害者の匂いだ……。

「クロード、どうですか」

「……あった、かもしんねェ」

 広範囲に広がる、匂い。丁度、小人が倒れ伏したらこのくらいの範囲に匂いがつくだろう。うん、間違いねェはずだ。

 覚えることはできた、が。

「これ、匂いめっちゃ薄いぞ。すぐ忘れそう」

 俺の記憶力の都合もあるけど、そもそも倒れていた時間が短いのだからしょうがない。すぐに城に帰んなくては。

「分かりました。すぐに馬車を__」

「皆様、馬車はこちらに停めております」

 毎度のように突然登場、継ぎ接ぎメイド……。

 俺達は慣れてきたが、アザナさんは急に現れた彼女に、小さく悲鳴をあげた。



   ***



「お疲れぇ、じゃあせかせかしてて悪いんだけどぉ、クロード。どれがその匂いの持ち主?」

 わざわざヘルに反応する必要も無いと判断した俺は慎重に、匂いを嗅ぎ分ける。

 櫛・万年筆・帽子・Tシャツやノートと。様々な物品の匂いと、今しがた覚えた匂いを照らし合わせていく。

「__あった。これだ」

 そう言って持ち上げたのは、何の変哲もない、ネクタイピンだった。微かではあるが、同じ匂いがする。

「これの持ち主が、被害者だ」

「これは誰の?ゾラ」

 ヘルが声を掛けたのは、例のメイド。

 どうでもいい事だけど、思わぬところで名前が明かされたなァ……。

「はい。こちらは種族・小人、ポップ=ラープ氏のものです」

 それが今回、俺が見殺しにしてしまった人の名前だった。いや、見殺しにするしか、あの場では出来なかった。

 名前が分かった途端、誰もが事実をより現実的に受け止め、静かになった。

 しかし、やはりあの少女は空気が読めない。

「なるほど。では、探しに行きましょう。さぁ、ヘルさん。お願いします」

 全員がなんとも言えぬ顔でノエを見つめる。視線の中心の彼女は、不思議そうに首を傾げるだけだ。

「ノエちゃん……前から思ってたけどぉ、度を越してサバサバしてるわよねぇ……」

 その通りです。

 俺とカロンは静かに頷き、アザナさんとリルは、ヘルの言葉に同意を示すように小さく頷く。

「サバサバ……ですか。特にそのように思ったことはありませんが……」

 しかも本人は自覚無し。



   ***



 そのあとは早かった。ヘルの特異性である『死者の書架』を使って、場所を割り出せば終了。敵の本拠地、若しくは商品(ポップさん)の居場所が判明する。

「__いたわよぅ。なんかぁ、死んでは無いけど、存在が薄くなってるわねぇ」

 要は、死にかけている。

「なッ!?じゃあ早く行かなくちゃッ!ヘルさん、場所は」

「落ち着きなさいよぅ、アザナちゃん。慌てても、事態は悪化するだけよぅ?それよりも今は、ポップさん、だったかしら?彼の無事が確認できただけでも上々だし、これから詳しい作戦を練りましょう」

 焦るアザナさんは、ヘルの言葉に口を噤む。

 さて、とヘルは周りを見渡す。今の俺達は談話室に集まっていた。居ないのは、メイドのゾラさんくらいだ。

「じゃあ、何か案がある人はいるかしらん?」

「はい」

 真っ先に手を挙げたのは、我らが【赤ずきん】様、ノエだった。ヘルがどうぞと言うと、ノエはいつの間にか持っていたギロチンを皆に見えるよう持ち上げ、真顔で言い放つ。

「ネル=ロイヤーの屋敷へ向かい、ぶっ叩く。以上です」

 あまりにも男前すぎるッ。

 全員ポカーンとしていた。この光景、さっきも見た気がするぞ……。

「どうかなさいましたか?これ以上ないくらいの名案だと思いますが」

「ちょ、ちょっと待ってくれるかしら、ノエちゃん?敵の数も、どういう構成なのかも、組織の規模も何もかも分かっていないのに、闇雲に突っ込むのはただの無謀よ」

 額に手を当てて、ヘルは呆れたように言う。リルやアザナさんも、口にはしないが、多分同じ考えなのだろう。

「大体なんでギロチンなんか……」

「これは私の相棒のようなものです。それに、私達にはクロードもヘルさんもリルさんもいます。人外の中でもお三方は強いのでしょう?ならば問題ないのでは」

「で、でも……。やっぱり相手がどんなのかは分かってた方が、動きやすいし……その……」

 おどおどと発言したリルを、ノエはただ無表情に眺めたあと。静かに頷いた。

「なるほど、それも一理あります。分かりました。ヘルさん、ポップ氏の所在地を教えてください__別行動にします」

 彼女の放った言葉に、全員耳を疑った。今は大人しくしようといった内容にも関わらず、この少女は単独行動をしようと言うのだ。

「え、ノエちゃん。それは危ないわよ」

 戸惑った様子のアザナさんに、しかしノエは一歩も引かない。

「危険は重々承知です。それに、皆さんの言うように、下調べを入念にしてからの方が確実でしょう。__ですが、それに一体何日かかりますか?」

 彼女は誰を責めるわけでもなく、ただ不思議そうに問いかける。答えを返す前に続ける。

「クロードが匂いを覚えるという方法が出るまでは、ポップ氏が被害者であると判明させるまで五日程かかるとおしゃっていましたよね。その次は、彼を助ける方法を考えるのに、また時間がかかる。彼は今死にかけているのであれば、何かを考える前に何らかのアクションを取るのが、私は良いと思ったのです」

 彼が死にかけているのに、時間をかけて安全な方法を考える。それは、彼を見殺しにすると言うようなものだ。誰一人として、それを考えていなかった。この赤い少女を除いては。

 ですが、とノエは更に続ける。

「安全であれば、それだけ多くの人を助けられるのも事実です。なので、是非私がポップ氏の所へ行っているあいだに、皆さんでその方法を考えて頂けますか?そうして頂ければ、とても心強いです」

「でも……もし、その、ノエちゃんが捕まったり……ッ、殺されたり、したら?」

 そんな不吉な質問にもノエはあっけらかんと返答してみせる。

「その時はその時です。もし、私が殺されても、その間はポップ氏が殺されることは無いかもしれません。私が殺されたと同時にヘルさん達が間に合えば、上々でしょう」

 勿論、殺されるつもりなんてありませんが。

 そう言いつつも、何だかんだで、自己犠牲厭いませんと、堂々正面切って言い切る姿に、そしてポップ氏を第一に考えるという、ここにいる全員が忘れていた事を思い出させた彼女の目には、この方法に対する不信感は一切感じれなかった。むしろ、何故俺達が、そんなに驚いたよう表情で自分を見ているのか不思議でたまらないといった顔だ。

 やがて、大きな溜息が部屋の空気を打ち破る。ヘルだった。

 彼女は、色々押し込めたような顔で、口を何度か開閉させた後、もう一度溜息をつくと、キリッとした表情でノエを見据える。それは、女王の顔だった。

「__ノエちゃん。貴女には、先にロイヤー邸の位置を伝えます。あたしが見つけ出したポップ氏の居場所と、合致してるから。だから、貴女はクロードとカロン君と先に行って、まずはネル=ロイヤーと会話。あわよくば、ポップ氏の奪還」

 そこで、言葉を切る。今まで見たことないような、不安そうな顔で俺達に祈った。


「最後に__殺されちゃ、駄目よぅ」

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