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アマリリスと狼  作者: 鷹弘
第2章◇珍種売買と狼◇
36/53

◇4話◇俺らの目的はなんだ!犯人探しじゃない!

「と、言うわけで。多分ネル=ロイヤーって奴が黒なんじゃないかって情報を得た」

 ヘルの屋敷で、各々が持ち寄った情報を交換する。

 俺らがパーティに行ってる間、ヘルはお偉いさんがここに来てたらしいからそいつから。リルは街に出て、聞き込みをしてたらしい。

「そうなのねぇ。あたしの方は、なんも無しぃ」

「ワタシも、特には無かったなぁ……」

 お偉いさんが知らなかったのは、少し意外だが、まぁ街に簡単に出回ってたら苦労はしねぇよな。

「うーん、じゃあ取り敢えずはぁ、そのネルって奴の監視に徹するかなぁ」

 なんだろ……。なんか気になる。いや、事件とは全くもって関係無い事だと思うんだが……。

「なんか、ヘルさんといい、リルさんといい。で、新しく出てきたネル=ロイヤーといい。最近、二文字で、尚且つ名前の二文字目に“ル”が付く名前の人が多いですね」

 ノエが俺の疑問を明らかにしてくれた。

 それだッ。本当に事件とは関係無かった!

「んー?……あ、本当だぁっ。面白ぉい」

いや、別に面白くは無ェだろ……。ヘルさん、あんたもそれに含まれてるんだぜ。

 ヘルは、俺の心中を知ってか知らずか、楽しそうに手を打ち鳴らして笑っている。

「あ、の。クロード、事件とは特に関係無いんだけどさ……」

 リルが静かに挙手をした。何かあったのか?

「その……どうだった?ドレス」

 あ。何を真剣な顔で言うかと思えば……!

「そうだよ、お前らなぁッ__」

「そうだったぁ!そうそう、リルと一緒に考えたのよぉ、あれ!可愛かったでしょう?基本、顔も整ってるしぃ、あたし達に似て、美人なんだけどぉ。あんた、全体的に細いけど、喉仏とかあるしぃ、足もまぁ、女子に比べたらゴツイじゃない?だから、色々工夫したの。例えば、喉仏を目立たないように、ハイネックに、とか。腕は細いから、ノースリーブにしてあえて見せる。でも、筋肉の付き方とか気になるからストール用意してぇ……」

「そもそも、女装しなくても良かっただろうがッ!」

 最初の考えからズレてる。何故、女装は前提なんだよッ。

「えぇ?でも、あんた女性の格好してなかったら、あのオジサマから情報引き出せて無かったでしょう?」

「うっ」

 てか、なんでそれを……。

「もちろん、『死者の書架』のお陰っ。……って言いたい所だけど、あたしもその時は来客の相手してたからぁ、これはメイドちゃんの情報よん。あの子に見張らせてたの、あんた達がサボらないようにねん」

 “メイド”と来て、更に“あの子”。それが誰を指してるのか、もう分かりきってる。継ぎ接ぎメイドだな。だから、馬車がすぐに来たのか。

「別にいいじゃなぁい。情報引き出せて、男性の視線全部奪って、持て囃されて。普通の女の子でも、なかなか味わえないわよう」

 むぅ、っと唇を突き出して膨れるヘル。まぁ、様にはなってるが、自分の年齢考えろ。それに、俺、男だし。男の視線奪っても、何の得も無ェし。

「い、嫌だった……?」

 俺もヘルに釣られて、むくれていると、横から不安そうに大きな体を縮めて、恐る恐るリルが尋ねてくる。

 ……だから、この視線には弱いんだって……。

「いや、新鮮で良かった……と思う?」

「本当に?よかった、嫌がってなくて……」

 いや、嫌がってはいます。全力で。

 でも、嬉しそうなリルに真実を告げる程、俺は鬼になれなかった。

「あの、クロードのリルさんに対する態度が、同じ又従姉妹のヘルさんとは違うのですが……」

「んー?あ、又は付けなくていいってばぁ、ダサいし。

クロードはぁ、リルみたいな純粋ちゃんに弱いのよねん。あたしは、まあ自他共に認める、性格だから、キレるのが簡単なんだけどぉ。リルの場合は何でもかんでも本気に受け取っちゃう子だから、すぅぐ、傷ついしちゃうのよん。だから、クロードはリルには優しめなのよう」

「ほう、つまり、クロードに何かする時は、リルさんも一緒にやると怒り半減ですか」

「そういう事ぉ」

 いや、何がそういう事だ。聞こえてんだよ、【紅狼(フェンリル)】の聴力舐めんな。怒る時は怒るぞ。

「すぐ傷ついちゃうくらいに、弱いから、クロードも守りたくなっちゃうんですかね」

「それはぁ、違うわよう」

 ヘルの思わぬ返答に、ノエは驚いた顔で反応する。

「むしろ、あたし達の中で一番危ないのはあの子、リルよぅ。

 三人の中で別の姿に変化できるのは、唯一リルだけだから。あの子の変化した姿は人間時(あれ)の比じゃないくらい、大きい蛇なのよぅ。まず、それで大体の奴は戦意喪失。それに、あとは隠し玉も色々あるしぃ。例えば……」

「その辺にしとけ」

 勝手に他人の切り札教えるんじゃねぇよ、このババア。

「クロード?今なんて思った?」

「そういうのはあんまり口にしたらいけないんと思うんだ、僕。若くて綺麗で素敵なヘルお姉ちゃんはどう思う?」

「よろしい」

 勝てない……。相変わらず、俺は口には出してないが、そこは流石【死の女王(ヘルヘイム)】と言った所か。

「まぁ、確かにクロードの言うことも一理あるかなぁ。ごめんね、これ以上は秘密って事でぇ」

 パチン、と口元に人差し指を添えながらノエにウインクをしたヘル。それに対し、ノエは頷くだけ。多分、聞いちゃ悪いということは理解しているのだろう。

「おい!取り敢えず本題に入ろうぜ!」

 カロンの一言で、全員今何をするべきか思い出した。そうだ、今はスカートの着心地とかを話し合う時間じゃないッ。

「本題というか、方針かな……。ヘルちゃん、どうする?」

「んんー、どうしよっかぁ。あたしは、そいつが黒なら一気に叩き潰しちゃいたいのよねぇ。だって__邪魔じゃない」

 そう言いのけたヘルの顔は、さっきまでのおちゃらけた雰囲気が無くなった、別人のような冷たさを纏っていた。彼女のこの顔を初めて見たカロンとノエは、身体を硬直させていた。

「でもぉ、違ったらちょっと問題があるのよねぇ」

 しかし、次に浮かべたのはいつもの気の抜けた笑顔だった。

「問題、ですか」

「そうそう。まず、真犯人を潰せないから、被害は減らないでしょう?それと、ネルって奴は、まあ地位が高いらしいし、襲われた、殺されたってなると、普通に面倒でしょう?だからぁ、慎重にやらないとなのよねぇ」

 面倒くさぁい。

 そう言って伸びをしたヘルは、面倒くさいことを隠そうともしない。

「慎重にか……。だとしたら、俺らは外で聞き込みがてら、観光するか」

「観光って……フェンリル、お前ここに何しに来たんだよ」

 俺の発言に向ける、十代(ティーン)の視線は氷のように冷たい。しかし、めげない。何故なら理由があるからなッ。

「今回は、観光に来た」

「は?」

「そうだよな、ヘル」

 話を振られた彼女は、頬に手を当てて、ニコニコしながら同意を示す。

「そうねぇ。あたしが送った手紙には、『あたしの国を観光するついでに、この前の借り返して』だものねぇ」

 つまり、俺らの一番の目的は観光だ。犯人探しは、そのついで。

「だから、明日から街出るぞ。行きたい所あんなら、予定立てとけ。俺はどこでもいいから」

 カロンは、未だに納得出来ないという顔をしている。一方ノエは、流石【赤ずきん】。というか、彼女だからか。もう、事実を受け入れて、明日からの予定を立て始めている。いつ呼んだのか知らんが、例の継ぎ接ぎメイドから観光冊子を受け取ってる。見てるページは、全部食い物の店。……“色気より食い気”って、ノエの為にあるような言葉だよな。

「それじゃあ、分かってるだろうし、クロードがいるから大丈夫だろうけど再確認ねぇ。夜は絶対に出歩いちゃ駄目よぉ。あ、でも自殺志願なら別にいいわよぉ」

 いい訳あるかッ。

 カロンも、ようやく事実を受け入れたのだろう。ノエと一緒に冊子を見ている。焼肉屋を見つけて行こうとか言ってる。果たしてこの二人に、今ヘルが言った注意が聞こえていたのか……。


「聞こえてますよ」

「おい、心を読むな。ヘルかよ」

「あらん?あたし心なんて読めなぁい」

「嘘つけ」


 明日からか……。犯人探しとかより、十代(ティーン)の面倒を見る方が、面倒くさそうだな。取り敢えず、再び女装なんてしないように、気を引き締めよう。

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