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アマリリスと狼  作者: 鷹弘
第1章◇アマリリスと狼◇
3/53

◇1話◇キノコ採りに行ったら、女の子に殺されかけた

  ***1時間前***




 ……しまった。キノコが無い。

 そろそろ昼食時だし、さてサラダでも作るかと台所へ向かった。向かったのはいいが、メインに使おうとしてたキノコを一昨日、夕食の味噌汁で使い切った事を忘れていた。

 別のモノを代用してもいいが、今日の気分はキノコ。食べ終わった頃に『やっぱキノコが良かった』とか言い出して、採りに行きかねん。そしたらいくらサラダとは言え、1日4食になって健康にも悪い。夕食を食べなければ、翌朝の食べる量が増えるだけ。本末転倒。だとするならば、今採りに行った方が1番いいに決まってる。

 そうとなれば、仕方ない。我が身の健康のためにキノコ、採りに行くか。

 備蓄する分も採るため、大きめの麻袋を持って、俺は森の奥へと入っていった。




  ***




 どうやら今日の俺は冴えているらしい。

 散歩も兼ねて、普段採りに行くのとは別の所に行くと、大振りのキノコばかりあるところに辿り着いた。

 なるほど。此処はかなり森の奥。

 皆、たかが山菜やらキノコ採りのために、こんな奥深くまで来ないから、安心してここまで育ったのか。

 普段は揺らさないよう努力している尻尾が、揺れている気がしないでもないが致し方ない。これは誰でもテンションが上がるだろう。

 しかし、この様子を誰かに見られたら死ねる。

 こんな、人目を気にしなきゃいけない時だけは、己が人狼である事を恨む。




  ***




 満足。

 予定してた量よりも多めに採ったため、麻袋がはち切れそうだ。これで暫くキノコには困らない。

 しかも、キノコひとつひとつが通常よりもデカイため、その分重さも増す。まあ、その重さ(イコール)キノコが食べられるという幸せ、なのだが。

 さて、流石にこれ以上採ると麻袋も千切れるだろうし、下手したらここの生態系を壊しかねん。

 よっこいしょ、と二十代にしてはジジくさい掛け声と共に立ち上がる。

 それでは早く帰って、サラダにかけるドレッシングでも作るか。

 俺の頭の中が、サラダのドレッシングについてでいっぱいだったその時。



「__」



《ダンッ》

 何かが聞こえたから、その音源を確認しようと振り返ろうとする。それとほぼ同時に、背後から銃声音が鳴り響いた。突然の音に驚き、固まった俺。真横にある木には弾丸がめり込んでいる。

 振り返る余裕が無くなった。なぜなら、その弾丸は俺の顔の真横に撃ち込まれたから。つまり、これは俺を狙った射撃。しかも此処からは相手の姿が見えないのにも関わらず、弾は俺の頭のほぼ真横。姿が見えないと言うのは、それだけ距離があるはず。……かなりの手練だな。

 こんなカッコつけた事言ってるけど、振り返れない実際の理由は、初めての弾丸にビビって動けないから現実逃避してるだけ。

 とにかく、自分の命が狙われている事は分かった。ならやる事は1つ。こんな所で固まって場合では無い。__逃げる!

 大きい音で、連続で鳴る銃声。それと共に軽くなった麻袋。走ってる今、確認する余裕はないが、十中八九、放たれた弾丸が麻袋に当たり、キノコが落ちてしまったのだろう。更に、俺の腹を弾丸が貫かないのは、中の厚みある、大振りキノコが代わりに撃たれたからだろう。

 クソッ、キノコ傷ついたら食べれないじゃないか。




  ***




 俺は、せめて相手の顔でも見ようと、走るのを止め、近くの木に飛び登った。さながら相手には、突然俺が消えたように見えることだろう。

 そうっ、と下を見ると、草むらがガサガサと揺れた。息を潜めて、観察し続けると、ややあって俺のキノコを打ったであろう人物が姿を現す。

 初めに目に入ったのは、赤。

 ソイツは真っ赤なフード付きのポンチョに、真っ赤なワンピースを着ていた。更にブーツまで赤という。靴下の白色がかえって目立つ。

 次に目を引いたのはソイツ自身。

 俺は、自分と同じ歳くらいの男を想像していたが、草むらから現れたソイツは女だった。しかも背丈から判断するに、10代半ば。

 俺はそんな奴が撃った銃弾にビビり、逃げてたのか!

 さっきまでの己の行動に悶える中、少女は姿が見えない俺を探すように当たりを見渡している。その様が少し滑稽で、にやけてしまう、と。

 ピタリ。

 少女は唐突に動きを止める。

 さっきまでと違う、その様子に、俺は顔を引き締め、息を殺す。

 すると、少女は思い切り顔を真上に向ける。

 突然のことに驚き、固まっていた俺と目が合うと、ソイツは言った。



「__見つけました」



 初めて聞く少女の声は、年相応に高く、また幼い。いや、年相応とは言っても、背丈から勝手に推測した年齢だが。

 しかし、俺が気になったのは、感情が込められていないその声。

 俺にはその声から、子供特有の、いや人間特有の感情が一切感じられなかった。


「どうやったら、一瞬でそんな木の上まで登れるのか。是非ご教授願いたいくらいです」


 俺の心中など知らない少女は、全く心にも思ってないだろう言葉を朗々と紡ぐ。俺は下手に動く事も出来ないので、それを馬鹿みたいにボケっと聞いてるだけ。


「ま、ご教授して頂く前に貴方には死んで頂くのですが……」


 ガチャンッ、少女の呟きに被せるように鳴った金属音で、俺の意識は一気に正常に戻る。

 少女は俺に向かって銃口を向け、躊躇なく引き金を引く。

 なんの前触れも無く鳴った、銃声を聞き終える前に、俺は木を飛び降りて走り出す。

 足音が全く聞こえないが、少女も俺、つまり標的を追うため、走り出しただろう。

 さっきの少女の言葉で分かったことはたった1つだけ。



__彼女は、本気で俺を殺しにかかってる。



 しかし、いくら敵が殺しなれていようと、どれだけ本気だろうと、死ぬ訳にはいかない。まだ、やりたい事だって沢山あるし、何よりあんな自分より1回りも年下だろう少女に呆気なく殺されることは俺のなけなしのプライドが許さない。




  ***




 そんなこんなで俺は、必死こいて走って、結局あの小娘にスタンガンで気絶させられた。




(続く)

2017.1.4→ノエの服装を少し変えました

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