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アマリリスと狼  作者: 鷹弘
第1章◇アマリリスと狼◇
18/53

◇7話◇俺って、意外と物知らねェんだな……

__「【武器(アムル)】、といいます」


 得意満面、どうだと言わんばかりの表情で言い切ったノエ。対して俺は……。


「チョップ」

「あ、痛いッ」


 お気楽娘の脳天に手刀を降ろす。かなり勢いつけたから、痛いと思う。

「何をするんですかッ」

「『何をするんですか』じゃねーよ!!なんでそれを早く言わない!?」

 その事実が早くにわかってれば、俺らはここまで怪我しなかっただろう。

 それに、そんな便利な存在があるなら、俺に頼らずとも【紅狼】を倒せるんじゃねーのか。

「それは……」

 俺の、ご尤もと言える指摘に対してノエは途端に口篭る。

「なんだよ」

「……わ、」

 わ?

「我が儘なんですよ……あいつ」

 ……はい?

 よく状況を飲み込めない俺に、ノエは渋々と言った様子で話し始める。

「【武器(アムル)】というのは、先程も言った通り、【赤ずきん】の武器です。

 彼らは、初めはただの武器なのですが、【赤ずきん】の血液を浴びる事で、私達の遺伝子情報を元に、人格を形成します。そうして、自我を持ち、生命体として変化します。つまり、【武器(アムル)】とは、【赤ずきん】の分身のようなものなのです。

 自我を持っているのだから、当然それぞれ性格が異なります。……私の武器である、コンダナシオンは__極度の気まぐれというか、めんどくさがりで……」

 普通は主人に似るはずなのに、どうしてでしょう。

 ため息をつきつつ、ノエの話は終わった。一言言わせろ。

 __めちゃくちゃ影響受けてんじゃん、主人にそっくりじゃん。

 だが、なるほどなァ。そんな気まぐれな性格だったら、【紅狼】殺しどころじゃないか。いや、それが【赤ずきん】のお役目なんだから、おかしいんだけどな。

「つか、血を浴びるとか、物騒だな……」

 俺の呟きに対し、呆れた顔をしつつ、カロンが答える。

「お前本当になんも知らねェんだな。

 こいつのあだ名、アマリリス。これは牧歌に出てくる、『少女アマリリス』が由来なんだ。

 __アマリリスという名の少女は、花にしか興味の無い、羊飼いの少年に恋をした。少年は、花を届けてくれる少女に関心を抱いていた。それを知った少女・アマリリスは神に祈る。すると神はアマリリスに、『一本の矢で自分自身を傷つけろ』と命じた。アマリリスは神から受け取った矢でその通りにする。流れ出た血が地面に落ちた瞬間、美しい花が咲いた。すると、羊飼いの少年はアマリリスに愛を告げた__。

 この話から、武器に血を浴びせる【赤ずきん】は、アマリリスと呼ばれるようになったんだ。勿論、血を流す際には矢を使う」

 意外と、ちゃんとした起源があったんだな……。それしか感想なんか出ねェよ。

「クロード、カロン。今はアマリリスの起源なんかどうでもいいです。話がズレてます。

 要は、【紅銀狼】のグレイプニルに挑むにあたり、コンダナシオンは良い武器になるかもしれない、という話です」

 忘れてた。

 確かに、わざわざこのタイミングで出すくらいだ。それなりに使えるだろう。それに、ノエの遺伝子情報を元にしてるってんなら、コイツの戦闘力も継いでんだろ?かなり強いじゃねーか。

「ところで、そいつってどこにいるんだ?」

「私の腕です」

 ……んんん?

「ごめん……老化かな。もう一回言ってくれ」

「ジジイですか。だから、私の腕の中ですってば」

 腕……。うで、ウデ?腕……。

 ノエの言葉を無意味に復唱する……が。

「どういう事だよ!?初めっから説明しろ!!」

 考えてみたものの、やはりと言うか、さっぱり訳わかんなくて怒鳴る俺。それに構わず、ノエは急に赤いポンチョを脱ぎだす。しかも、それだけに留まらず、中に着ていたブラウスのボタンも外し始める。

 いきなりの行動に慌てる俺とは違い、流石は幼馴染み。カロンは動じない。なんでだよ。

 ブラウスも脱ぎ、肌着になったノエの姿に俺は、嫁入り前の娘がどうとか、男が二人もいるんだぞ、とか。言おうと思ってた言葉が出せなかった。

 長袖のそれの下にあったのは、複雑な文様でビッシリと埋められた、彼女の両腕だった。

「これが、コンダナシオン__シオンを仕舞っている陣です。この陣により、私の腕と、外界との間に異空間を作り出し、そこにシオンを仕舞っているんです。ちなみに、見てわかる通り、両腕に陣がありますが、契約してる武器は一つです。片方には本体、もう一方には予備を仕舞っています」

 説明を終えると、またブラウスを着始める。

 彼女の両腕の文様が、陣が、重く逃げられない【赤ずきん】の使命を表しているようだった。

「あ、武器についてですが、クロードも一回は見たことありますよ」

「は、嘘だろ。いつ?」

「嘘付く必要性が無いです。

 私が先日、朝の訓練と称して、木を切り倒した時です」

 あん時……?確かあいつが持ってたのは、ナイフと……。

「はい、ギロチンです。私が契約したのは、持ち手のついた、特殊な形状のギロチンです」

 あれか……。

「随分物騒な武器だな」

「子供の時に選んだんです……、若気の至りというか、なんというか」

 自分で選んだのかよ!?流石ノエ、子供の頃から恐ろしい……。

「とりあえずさ、シオン呼んでみて、どうするか決めようぜ?」

 フェンリルも【武器(アムル)】について理解したみてェだし。

 幼い頃の自分の行動を若干恥じるノエと、幼い頃のノエの行動に恐れおののく俺。またズレ始めた空気を、カロンは、至極まともな意見で修正する。

 確かに、自我があるならそいつの意見も聞いてみてェな。意見は多いに越したことはない。

「そんじゃ、リリー。頼んだぞ」

「頼んだぞって言われても、そんな呪文とか唱えるわけでもないんですがね……」

 言いつつ、ノエは腕に掌を当てる。


 さて、噂の【武器(アムル)】__コンダナシオンってのはどういう奴なんだろうな。

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