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アマリリスと狼  作者: 鷹弘
第1章◇アマリリスと狼◇
17/53

◇6話◇ノエって……どんだけ馬鹿なんだろ

 あれから__。

 全員が全員、多少の差はあれど、傷を負わされたため、一旦治療のために家へと戻ることになった。中でも重症だった俺は、ノエとカロンに肩を借りなければ歩くのも辛い。

 カロンの言っていた【紅狼(フェンリル)】の、違和感のある集団行動。その統率者は、十中八九グレイプニルとかいう、奴に違いないだろう。あんな奴に集団の指揮を任せていては、この森は近いうちに軍隊にでも変わってしまいそうだ……。


「くっぅぅ……、痛てェ……!」

「我慢です。幸い、縫合とかが必要なわけでもなさそうですし、これで平気でしょう」

 やけに手際がいい。やっぱりアレか、【赤ずきん】となるための修行とか、そういう奴で自然と身についたとか?

「いえ、これはカロンが幼い頃、ところ構わず走り回っては、転び。またある時は狩猟用の罠に掛かって怪我した時とかに、私が治療をしていたからです」

 お前かよ。

 気まずそうに目を逸らすカロンに、俺は呆れた視線をぶつけるしかなかった。

「さて、とりあえず治療はこれくらいでいいか。ありがとな、ノエ」

「いえ」

 とは言っても、これからどうするかなどは全く決まっていない。そもそも何から解決すればいいんだ。

 すると、カロンが静かに挙手した。

「あのさ、さっきの大男__グレイプニル、だったか?その名前、オレ聞いたことあるかも」

「聞いたことあんのか!?」

「あァ。

 【紅狼】の別名にもなってる『フェンリル』ってさ、元は北欧神話から来てるだろ。リリーがお前の治療してる間に必死に思い出してたんだけどよ、グレイプニルってのは、確か魔法の紐の事だったはずなんだ。

 神々は災厄を招くと予言されたフェンリルを拘束しようと考えた。けど、どんなに強固な鎖でも、彼を封じるには至らなかった。そこで、神々は最後の手段として、魔法の紐、グレイプニルを使ったらしい」

 オレが知ってるのはここまでだけどな

 カロンはそう締めくくった。

 【狩人(シャスール)】である彼は、【赤ずきん】を補佐するために、様々な知識を得ていることは知っていた。それこそ、俺__【銀狼】__の存在を知っているくらいだ。

 しかし、こんな事まで知っていたとは……。ただの馬鹿キャラじゃ、無いみてェだな。

 それに対して、補佐される存在であるノエは、全くもって、聞いたことが無い様子。……大丈夫か、コイツ。

「カロン、つまり彼__グレイプニルは、クロードを拘束しようとしている、ということですか。否、殺そうと、ですかね」

「あァ、可能性は高い。けど、アイツも【紅狼(フェンリル)】だろ?アイツの名前だと、自分自身も拘束することになるじゃねーか」

 まぁそうだな。

 だが、それに関しては一概に言えない。そもそもアイツは、【紅狼(フェンリル)】なのか?オッドアイ、紅と銀の入り交じったあの髪。どこを取っても、中途半端だ。【紅狼】としても、【銀狼】としても。

 それに、奴は俺に対して言ったのだ。


__『お前は長として相応しくない。長は、俺だ……!』


 長になるのは、【銀狼】のみ。それは、絶対に覆らない。だが、もしカロンが見かけた集団の【紅狼(フェンリル)】達のリーダーがアイツだとしたら?誰かの下につくことを良しとしない、【紅狼(フェンリル)】が従うのは【銀狼】のみ。つまり、アイツは長として、【銀狼】として、奴らの上に君臨していることになる。

「__……ード。……ロードッ。クロード!!」

「えっ」

 いかん、考え込みすぎていた。至近距離で名前を連呼したノエに全く気づかなかった……。

「貴方が何を考えていたのかは、残念ながら分かりません。が、これからの活動方針が決まったので一応ご報告します」

「今後の活動方針?」

 ノエは普段のやる気なさげなジト目に、微かな光を灯して、俺に告げる。


「__私、第二十五代目【赤ずきん】、ノエ=エカルラートは、【紅銀狼】グレイプニルを捕獲対象と決定致しました」


 そんな事を、告げた。

 開いた口が塞がらないとは、正にこういう場面で、使うべきなのではないだろうか。

 固まってる俺、とカロンを置いて、ノエはさらに続ける。

「そもそも、私がこの森に来ているのはお役目のためです。そして、クロードと同盟を組んでいるのは、共に【紅狼】を見つけ出し、殺すためです。ならば丁度良いではありませんか」

「……な、何が丁度良いだよ!え、てかスルーしそうになったけど【紅銀狼】って何!?」

「とりあえずの名称です。なかなか良いかと」

「語呂悪いから!それに、アイツの強さはお前自身も受けたから知ってるだろ!なんでそんな無謀なこと……」

「そ、それにリリー!アイツは【紅狼】とも正確には言えねえだろ!いいのか?」

 突拍子も無いことを言い出したノエさんに、慌てふためく男性陣。しかし、ノエはそれでも揺るがない。

「カロン、クロードは正真正銘の【銀狼】なので、駄目でしょうが、奴は混じってます。だから大丈夫です」

 親指を立てて、ドヤ顔を決めてくる。いや、ドヤっ、じゃねーよ。

「それに、クロード。奴の強さは私も重々承知です。それこそ、勝てる見込みはほぼ無いと言えなくもありません」

 そこまで分かっていても、止めないって、強情を通り越して、本当に馬鹿だぞ。

 そんなことを言おうとした俺を見越したのか、ノエは俺に掌を向けて、黙るように促す。

「勿論、勝てる見込みはほぼ無い。けれど、それは『今の状況のままだと』、ということです。

 いつも、カロンは知識を持ってるのにとかなんとか言ってるクロード。貴方こそ、薄識なのでは無いですか?」

 そんな勿体ぶっているノエ。カロンは徐々に理解してきたのか、話を待つ姿勢に入っている。今ここでついていけてないのは、俺だけだ。

「だから、何なんだよ。なんか秘策でもあるってのか?」

 痺れを切らして、尋ねてしまった俺に、ノエは待ってましたと言わんばかりのニヤケ顔を向けてくる。普段はそうお目にかかれない、珍しい表情だ。


「私達【赤ずきん】は、非常時に自身の身を守るため、とある武器と契約しています。それを__【武器(アムル)】、といいます」

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