番外編◇初めての料理◇
「今日は、私が料理を作ります」
同居をし始めて、数日経ったある日。適当にラジオを流しながら、読書をしていた俺に、ノエはそう宣言した。突然の事に、俺は反応が出来なかった。
「クロード、聞こえてますか?今日の昼食は私が作ります」
「……あ、あぁ。聞こえてる。でも、なんで急に?」
俺の最もな質問対し、ノエは待っていましたと言わんばかりの表情をして、俺に告げる。
「同居していた今の今まで。私は全ての家事を貴方に任せっきりでした。勿論、家主である貴方の都合もあるでしょうから、下手に私が触るよりいいと思っていたと言うのが理由です」
けど。
ノエはそこで一息置いて、拳を握りしめて、言葉を続ける。
「私の現在の立場は、居候です。住まわせて頂いている者が、何もしないのもどうなのかと。なので、手始めに料理をしようかと」
驚いた。普段偉そうに俺の事をコキ使っていた彼女だったが、多少なりともそういった考えが存在していた事に。
「所で、お前は料理した事あるのか?」
「いいえ?私は筋トレとかばかりしていたので、家事は一切した事ありません」
なんで、それで料理やろうと思ったんだよ。
呆れて声も出ない俺の言いたいことを悟ったのか、珍しく焦ってる様子の彼女は、言い訳をするように言葉を紡ぐ。
「ご安心下さい。初めから難しいものは作りません。コレでも、器用なほうですし、料理くらいいけます」
あっ、フラグが立った気がする……。
取り敢えず、不安を感じた俺は、その不安を見なかったことにして、カレーのレシピを渡して、やらせてみることにした。
カレーなら、食べたことあるだろうだから完成図も思い浮かべやすいだろう。それに、ルーはスパイスなどを使って、本格的に作らなくても、既製品のルウを入れればいい。肉や野菜も、切ったり、炒めるだけ。
俺はリビングで寛いでて良いそうなので、お言葉に甘えて、昼寝をした。
***
__数十分後__
カレーの匂いに釣られて、俺は目が覚めた。
カレーの匂いがするという事は、ちゃんと作れたらしい。安心した。
皿出しくらい手伝おうと、台所に向かい、ノエの後ろ姿に声を掛けると、
「く、クロード……。どうかなさいましたか?」
今しがた作り終えたらしいカレーを、背後に隠した。
嫌な予感がした俺は、確認のために聞いてみる。
「ノエ……。出来たんだよな?」
「で、きたには……、出来たのですが……」
言いづらそうに目を泳がせる彼女を見て、フラグが回収されたことを悟った俺は、彼女の焦る言葉を尻目に、鍋を覗き込む。
真っ黒だった。しかし、匂いはカレー。
「なぁ……」
「……はい」
「この黒い液体、何?」
「カレー……。いえ、『黒い湖~カレーの匂いを添えて~』です」
何、それっぽく言ってんだよ!!
そんな料理あってたまるか!!しかもなんかよくよく聞いてみたら、その名前もダサいし!
「そもそもなんで、こんな黒いドロドロ状態なのに、匂いだけは正常なんだよ!」
「そ、それは、カレーのルウを入れたから……です……」
シンクの上には、全て使い切ったカレールウの空箱が置いてあった。
なんで、全部使ったんだよ……。箱の裏見ろよ……。
***
その日以降、俺はノエに料理禁止令を出した。
因みに、『黒い湖~カレーの匂いを添えて~』(ノエ命名)は、二人で苦労して食いきった。炭の味がした。なのに、鼻を通るのはカレーの香り。
数日間、トイレに行き続けたのは言うまでもない。しかし、何故かノエは腹を下さなかった。どうなってんだ、アイツの腹。