ツルが恩返し
僕がコンビニでバイトをしていると、駐車場の片隅で、フードを目深にかぶった男が横になっていました。
何日も同じ服を着ているようで、コートの色が、もともとどんなだったか判らないくらい汚れていました。
どうやら住むおうちもなく、お腹を空かせている様子でした。
僕は、賞味期限切れで廃棄処分になったサンドイッチを店長からもらい、男に持って行きました。
店長は、癖になるからやめなさい、と言っていましたが、僕は気にしませんでした。
だって、男がかわいそうだったからです。
男は、あ、とか、う、とか言って、サンドイッチを持ってどこかへ行ってしまいました。
僕はいいことをしたと思いました。
季節が涼しくなるころ、学校で運動会が行われます。
今回の目玉種目は、全校男子全員で行う棒倒しです。
これで勝った方が優勝です。
僕は守り手の一員になりました。
攻めてくる敵軍から、棒の先に付いた旗を守る役目です。
開始の合図が鳴って、攻め手が旗を取りに行き、守り手がそれを防ぎます。
敵軍はとても強く、僕たちのチームの旗が、取られそうになりました。
その時、観覧席から一人の男が飛び出し、敵陣の旗へ向かって行きました。
僕がコンビニで、サンドイッチをあげた男でした。
うおー、って叫んでいたので、みんな怖がって近寄りませんでした。
男は敵陣の旗をむしり取り、折って投げ捨てました。
男は言いました。コンビニの坊ちゃん、恩返しに、旗を折ってやりましたぜ、と。
警備員たちに取り押さえられた男のフードがめくれ、スキンヘッドが見えました。
そう、男の頭は、ツルツルだったのです。
頭ツルツルの男が、旗を折って恩返しをしようとしたようですが、闖入者による妨害で、棒倒しはノーカンになって、運動会はおじゃんです。
僕は、バイトをしていることが学校にばれて、一週間の謹慎となりました。
とっぴんぱらりのぷう。