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8・トラップ発動

†前回までのお話†

目まぐるしく配置を変える図書館のダンジョンで、タイガは一冊の郷土資料を見つける。その本によると、昔はこの町のダンジョンにもモンスターや冒険者がいたという。

 図書館のダンジョンは、思った以上に深かった。

 フロア案内は漠然としていて、地下三十階よりも下は何も書いていない。その日によって深さが変わるのかもしれなかった。


 地下二階は時代小説、三階は児童福祉の本が中心に並んでいるが、進んでいくうちに変わってしまう。さっき見た本がまたあったり、関係ない本が隣同士になっていたりする。


 タイガはフロアを散策しながら、ダンジョンや精霊の本を探した。進めば進むほど、配置も分類も乱れていくので、見つけるのは容易ではなかった。


 いくつかの本を見てわかったのは、昔のダンジョンには、絶大な力を秘めた財宝が眠っていたこと。それを使いこなす魔法使いや勇者がいたこと。財宝を手に入れる者もいたが、モンスターとの戦いで息絶えてしまう者もいたこと。


「お、あった!」


 モンスターの絵が大きく載っている本を見つけた。氷の翼を持つドラゴンに、巨大なタコのような生物。隣のページには、精霊の絵もある。薔薇の精霊、雷の精霊、砂岩の精霊。どれも美しい女性の姿をしている。傷ついた人間を癒したり、時の流れを止めて運命を変えたりしたという。


「なんか、水野さんが気の毒になってくるよ」

「それより自分の心配したら?」

「ごもっとも」


 ブタに言われ、本を閉じる。表紙を見ると、タイトルの左上に有名なゲームのロゴがあることに気づいた。


「何だこれ。攻略本か」


 つまりは全部、架空の生き物だったというわけだ。ほれ見ろというようにブタが鼻を鳴らし、タイガは肩を落とした。


 ふいに、後ろから背中を叩かれた。


「やっぱりタイガだ。何読んでるの?」


 振り返ると、マアトが立っていた。腕いっぱいに、裁縫の本や雑誌を抱えている。


「あー、そのブタ!」


 マアトはぱっと顔をほころばせた。


「使ってくれてたんだ」

「使うって何に……あっ、こら」


 ブタはタイガの帽子から滑り降り、マアトの持っている本の上に乗った。長いまつげの目でマアトを見上げ、元気そうね、と言う。


「すごい。あたしが縫ったから動くようになったの?」

「まあ、そういうことにしといてあげようかね」


 ブタは笑い、タイガの肩に飛び移る。タイガがわざと避けたので、床に転げ落ちた。


「やっぱり好きなんだな、裁縫」

「本ばっかり借りて、全然作らないんだけどね。あっ、それ可愛い」


 マアトはタイガの本を覗き込んだ。タイガは恥ずかしくなり、間違えたんだよ、と言った。


「ダンジョンの本を探してたんだけどさ」

「でもフィクションだって、神話や言い伝えを元にしてるのが多いよね。もしかしたら、そのサイも本当にいたりして」


 表紙のモンスターを指さしてマアトは言った。いやそれサイじゃなくて一角獣だろ、と言いたいのをこらえ、タイガはうなずいた。

 あとね、とマアトが言った。


「前にどこかで聞いたんだけど、今あるダンジョンは休火山なのかもしれないんだって」

「休火山?」

「普段は大人しく人間に使われてるけど、ある日突然」


 ドン、と足下で音が響いた。タイガとマアトは顔を見合わせる。


「今の聞いたか?」

「うん。あ、待ってタイガ!」


 床が動き出す。タイガはマアトのほうへ戻ろうとしたが、間に暗い溝ができ、見る見るうちに広がっていく。タイガの乗った床は猛スピードで動き、狭い通路を押し分けて通り、階段を滑り降りていく。タイガはどうすることもできず、ただ運ばれていった。


 トラップを踏んだのね、とブタが言った。


「トラップ?」

「この図書館、かなり高度なダンジョンだよ」


 ブタはタイガの背中によじ上り、帽子の上に乗った。

 風を切り、何度も方向を変え、時々耳がおかしくなるのを感じた。かなり深くまで来ているようだ。


「これ、いつ止まるんだろう」

「ダンジョンの深さとあんたの人生と、どっちが長いかによるね」

「そんな!」


 思わず床から飛び下りようとした時、急に動きが止まった。周りを見ると、空っぽの本棚がいくつかと、本が数冊散らばっていて、目の前には大きな扉があった。


「保存書庫。関係者以外立ち入り禁止」


 タイガは扉に書かれた文字を読んだ。ブタを見ると、愉快そうに鼻を突き上げて笑っていた。


「でかい餌だね。釣られてみる?」


 タイガはドアに手をかけた。ゆっくり手前に引くと、重い音を立ててドアは開いた。ひんやりとした空気と埃のにおいが鼻をつく。


「ちょっとだけ。見るだけだからな」


 含み笑いをするブタに言い聞かせ、タイガはそろりと忍び込んだ。見るだけではすまない。そんな気もしたが、ここまで来て引き返すのも嫌だった。


 昔、ダンジョンを冒険していた人たちもこんな気持ちだったのかもしれない。タイガはそう思いながら、後ろ手でドアを閉めた。


挿絵(By みてみん)

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