25・移動ダンジョンに乗って
†前回までのお話†
モンスターの赤カバが水野をさらって逃げたという。地下水のほこらが怪しいが、入り口は二つとも閉ざされてしまった。タイガ、マアト、黒ウナギ、ブタは、別の行き方を探すことに。
移動ダンジョンが他の施設や下水道、民家などに引っかかり、残ってしまうことがある。余震の原因にもなる厄介ものだが、今回ばかりはありがたかった。
タイガの思った通り、マンホールのちょうど真下に移動ダンジョンがあった。
「ここに入るの? 本当に?」
中を見て、マアトは眉をひそめた。長い間開けていない物置のようなにおいがする。
「黒ウナギの背中をつたって入ろう」
「何だって! 俺は梯子じゃないぞ」
黒ウナギは文句を言ったが、結局全員で入り込んだ。中はひんやりとして、思ったより広い。タイガの頭の上でブタがぽんぽんと跳ねている。出かけるのが久しぶりで喜んでいるのだ。
「それで、どこに行くの?」
マアトが携帯用モップで周りの床を拭きながら言った。
「ガラス工場跡のダンジョン。奥に地下水のほこらがある」
「赤カバはそこに行ったの?」
わからない。でも、他に思い当たる場所がなかった。もう少し調べてから行くべきだろうか。そう思った時、床がガタガタと揺れ始めた。
「う、動いてる!」
「そりゃ、移動ダンジョンだからな」
黒ウナギが言った。
「行き先が決まったなら、身を任せてればいい」
埃が舞い、タイガは咳き込んだ。全身の骨が小刻みに震える。
「まだ掃除が終わってないわ」
マアトはモップを握ろうとしたが、揺れに逆らえず転んでしまう。タイガも尻もちをついた。ブタは振り落とされまいと、前足でタイガの帽子にしがみついた。
「しっかりしてちょうだい。旅が楽しめないじゃないの」
「お前のせいでバランスが取れないんだよ」
ようやく揺れが収まり、黒ウナギがダンジョン内を照らしてくれた。辺りは白っぽい岩でできていて、ところどころに突起がある。壁には地層のような模様がついている。何度も壊れたんだろう、と黒ウナギは言った。
「壊れた?」
「しょっちゅう他のダンジョンにぶつかるからな」
大変、とマアトが立ち上がった。
「皇居のダンジョンや国会議事堂のダンジョンにぶつかったら、どんなに怒られるかしら!」
そんなダンジョンあるのか、と思う暇もなく、ドンと音が響いた。タイガは座っていた窪みから前のめりに倒れ、ブタを振り落としてしまった。
「気をつけてって言ってるでしょ。私はロース肉の塊とは違うんだから」
「ご、ごめん」
顔を上げると、目の前に星が浮かんでいた。ついに幻覚を見たかと思ったが、他の三人も同じ場所を目で追っている。
「今、プラネタリウムのダンジョンを通過してるところだ」
黒ウナギが言った。深い青や鮮やかな金色をした、大小さまざまの星がゆっくりと宙を移動している。辺りは暗闇で、星の通ったあとにうっすらと光の帯ができた。
「ぶつかる!」
マアトが叫んだ。これ以上何かにぶつかってたまるか、と思ったが、逃げる暇もない。燃えるように赤い星が見る見る大きくなり、タイガたちのほうに飛んできていた。
「ぶつかるわけないじゃない。プラネタリウムよ」
ブタの言う通り、星はタイガに重なり、飲み込み、赤く染めたが、何事もなく通り過ぎていった。温度も感触もない。
「へえ。本物みたいだな」
「本物見たことないでしょ」
水晶を散りばめたような星団が、ミルク色の星の粉が、銀のつゆをたたえたひしゃくが、次々とタイガたちをすり抜け、通り過ぎていった。
実際は星が通り抜けたのではなく、移動ダンジョンがプラネタリウムの中を通り抜けたのだ。
その隣は博物館のダンジョンだった。恐竜が見られる、とタイガはわくわくしたが、通ったのは鉱物のフロアだった。
「気をつけて! 今度は本物よ」
アメジストやアイオライトの原石が、ケースを突き破って飛んでくる。タイガはブタを落とさないように気をつけながら、跳んだりかがんだりして石をよけた。煮えたぎったマグマから火成岩を作る実演が始まった時は、ヤモリのように壁に貼り付かなければならなかった。
博物館の次は炊飯器のダンジョンで、危うく足を炊き込まれそうになった。その次は乾物屋のダンジョンで、かんぴょうや椎茸に似たモンスターが大量発生していた。
シーソーのダンジョンでは、向こう側に誰かが乗るまで動けない。たまたま地下鉄が通ったから良かったものの、そうでなければ立ち往生だった。
「今日は妙なところにばっかりぶつかるな」
黒ウナギは壁の四隅を順に照らし、壊れていないのを確かめた。
「きっとサービスよ」
マアトが言った。
「タイガに見つけてもらったのが嬉しくて、サービスしてるんだわ」
「そんな馬鹿な」
そうね、とブタがあくびをしながら言った。
「モンスターに精霊にダンジョン。モテモテで結構じゃない」
じゃあ代われよ、と言いかけ、舌を噛みそうになった。ダンジョンが急停止したのだ。
「またぶつかったの?」
「いや、着いたみたいだ」
黒ウナギがヒレで壁を撫でながら言った。しかし、出口はどこにもない。それどころか、隙間も覗き穴すらもない。
「本当に着いたの?」
「ああ。ガラス工場跡のにおいがする」
「どんなだよ」
ダンジョンはぴくりとも動かない。中にタイガたちがいることすら忘れてしまったようだ。
余計なサービスはするのに、肝心なところで気が利かない。まるで水野のようなダンジョンだ、とタイガは思った。




