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1・ダンジョンへ行こう!

「おはようございます。今日もA班、B班、C班に分かれて手際よく行きましょう。では解散!」


 合同の挨拶を終え、メンバーはそれぞれ装備を整えてダンジョンへ向かう。タイガとマアトは二人でパーティを組むことになった。


「よろしくな」


 タイガが言うと、マアトは軽く会釈をして立ち上がった。


「あたし、効率重視でサクサク進む派だから」


 ポニーテールの髪をバンダナに押し込み、ブーツの紐を結び直すと、足早に歩き始める。タイガは小さく肩をすくめ、後に続いた。


 ダンジョンというのは、地下に作られた迷宮や牢獄のことだ。しかしこの町では、少し事情が違う。


 岩地に囲まれた窪みに、ダンジョンの入り口を見つけた。なじみの店の暖簾をくぐるような気軽さで、マアトは入っていく。


 短い階段を下り、最初のフロアに着いた。


 むっとした空気が鼻をつく。

 埃だらけの床に、スナック菓子の袋やカップラーメンの容器、紙くずや古雑誌などが落ちている。


「じゃ、左から順に片付けましょ」


 二人は装備を確認する。

 マアトは片手に洗剤、もう片方の手にデッキブラシを構えた。タイガはポリ袋を出して広げる。


 腰をかがめ、ゴミを拾って袋へ入れていく。生ゴミと不燃ゴミを分別し、ペットボトルのパッケージを素早く剥がす。その後ろから、マアトが洗剤をまいて床をごしごしこすっていく。

 一つのフロアを回り終わると、階段を下りる。地下二階、三階と進み、同じことを繰り返す。


「タイガ、仕事早いね」

「そうか?」


 汗をぬぐい、時計を見た。昼休みまではあと三時間、終業まではまだまだ遠い。何階まで下りたのか、時々わからなくなる。


「来る日も来る日も掃除、きりがないな」

「いくらでも仕事があるってことでしょ。最高じゃない」

「汚部屋が最高かよ」

「どんなものでも、巡り巡って誰かの役に立ってるってこと」


 綺麗になったダンジョンは、いろいろなことに使われる。

 森の泉のダンジョンでは階段バケツリレー選手権が行われているし、床下収納のダンジョンは焼き肉屋になるらしい。悪の組織のアジトになったのはどこだっけ、とタイガは記憶をたどる。


 この町には数え切れないほどのダンジョンがある。その数だけ仕事もある。ダンジョンで働けるなんて夢のような話だと思った。見たこともない生き物や、不思議に満ちた場所を求めて、タイガはここへ越してきた。


「なんかな〜。イメージ違うんだよな」

「イメージって?」

「ダンジョンがいっぱいあるっていったら、もっと、その……」


 そのうち気に入ったところが見つかるよ、とマアトは言った。


「あたしだってそうだよ。合ってる仕事を見つけたら、そこで正社員を目指す」

「正社員ねえ」


 掃除の仕事は嫌いではない。地下三階、四階、五階、淡々と数えながら作業をする、こんな毎日も悪くはないと思う。

 ただ、どうしても引っかかることがあった。


 途方もない数のダンジョンがあるのに、魔法もモンスターも武器もアイテムもないのはなぜなのか?


 ジュースのパックを拾って袋に入れ、また時計を見た。

 このダンジョンを綺麗にしたら、巡り巡って誰かの役に立つ。幼稚園になるのか、動物園になるのか、集団墓地になるのかわからない。とにかく誰かの役に立つのだと思い、タイガは掃除を続ける。

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