遭遇
闇の中。聞こえるのは自分の息遣いと車の走る音だけ。明かりを消し、何も見えない部屋で、僕は暗闇を見つめる。別に眠れない訳じゃない。眠らないだけ。
僕が暗闇を観察するようになって4日が経っていた。でも、今宵も闇はただ暗く吸い込まれそうな深淵を見せるばかり。
そっとため息をつく。それは現実への小さな絶望か、それとも異界への期待か。微かな空気の揺らぎはすぐに闇に消え、…そこに暗い影を作り出す。
その影は闇に溶けて僕の側に近づく。そっと背をかがめ、僕の耳に顔を近づける…。
『へぇ、私を呼び出す人がいたなんて知らなかったなぁ』
突如、静寂の空間に少女の声が響いた。
「えっ…!?」
思わず周りを見渡す…が、そこに見えるのは暗闇ばかり。
『あれ、貴方…見えてないの?』
少女の声は近いようで遠く、目の前のようで背後のよう、まるで…闇が喋っているみたいに。
「…あぁ、僕にはわからない。君はどこにいるの、何者なの?」
少女はクスクスと笑う。その声が天使の声のように透き通っている事に僕は改めて気づく。そして、
『魔王の娘である私を何も知らずにたまたま召喚…?ふふ、面白い人だね、貴方』
そして僕は、天使の声を持つ悪魔に出会った。