02:独裁帝国-ウゴメクモノ-《1》
次は帝国側の話です。ようやく石をめぐる理由や帝国の内部の人間、帝国の立場について明かされていきます。
延々とコンソールの音が鳴り響く。コンピューターが並べられたその部屋は沢山の情報を制御、あるいは新たにプログラムする操作音がやかましい。
『何ッ度も言わなくッても分かッてるッてのにネ』
その部屋の一角でかったるそうに葉巻をふかす男が一人呟いた。やたら口調に特徴のあるこの男は帝国所属の人間なのだろうか…帝国にある72の支部のうちマルコシアスという支部に今、彼はいる。
『いッくら行き倒れ拾ッてくれたからッてコレは扱い酷すぎッじゃないッかネ』
ウンザリしきった様子で男は呟く事を止めない。独り言なのかと思いきや、突然彼の横で仕事に取り組む青年に意見を求めてみたりしている。
『…君ッもそう思わないッかネ?』
「………」
黙々と。よほど仕事に熱中しているのだろうか。青年からは返事の一つも返される事は無く、結局男が振った会話も成立せず独り言に終わってしまった。ただ虚しくキーボードのカタカタという音が室内に響く。
『仕事ッの虫ッには通じないみたいネ−…』
殺伐としてどこか空虚な空気の中、この不思議な語りをする男は仕事へと戻っていった。
その様子はくわえた葉巻から漏れ出す煙のように。イマイチ掴めぬ言動だけを残して─
─独裁帝国。
いつ頃から出来たのかはわからないが、元々独裁政権を強いていた国だった。それがマフィアや闇医者…所謂《裏社会》の人間達の思想を取り込んで現実化された無法地帯となったのが事の始まりだ。
気に入らない者や刃向かう者には容赦なく破壊という名の鉄槌を下し、配下に引きずり込むのは当たり前。勿論それなりの武力や財産も兼ね備えているのだが、最早世界の半分を支配しておきながらこの期に及んで何を望むのか。本当の目的は定かではない。
莫大な領地を持つ帝国のそれぞれのエリアを束ねる七人の将は《セブンズ・ペイン》と呼ばれ、七つの大罪を意味するその通称は今や万国共通語のようにあちこちに知れ渡っていた。
分かっているのは彼等もまた、過去の聖戦の後に突如として採掘された力秘めし宝石…《大地の涙》を探し、利用しているという事─
大規模な戦争の中、初めは財産目的で発掘していたこの石が魂の底の《眠れる力》を呼び醒ますキッカケになるという事を先に発見したのは皮肉にも帝国側。石の力を引き出すべく《石の力》を武器や魂に充填する方法を思いついた彼等は次第に個々で石の力を引き出せる事を知る。
それは勿論《覚醒》するには条件があったのだが帝国に壊滅的ダメージを受けた国の者達もまた、葬られた者達へのやり場のない怒りや復讐心をたぎらせて石を使いこなす者が現れる。武器に宿すものあれば魂に宿すものあり…魂の中に鬼や獣がある者は、その力までもを引き出した…