01:夢追侍-ユメオイビト-《2》
ジットリとした空気。倒壊した時に無造作に積み上げられた廃材の隙間からは雨露で溶け出した錆混じりの滴がポタリ、ポタリと落ちては真下の砂地を穿っていた。大分奥まで潜り込んだようで、もう外界の音も届かず只暗闇がヤマトを包んでいる。
『おし、この辺りまで来りゃあイイだろう…』
まだ掘りかけなのか、トンネルの出来損ないのような窪みを前にヤマトは足を止める。すると慣れた手つきでヘッドライトの一部のようなモノを道具袋から取り出すと、額のハチガネの真ん中辺りのプレートの一部を外してライト部分をセット。どうやらこのハチガネは只のアクセサリーや頭部保護の為にあるわけでは無いらしい。
『聞いた話によるとトクガワの埋葬オーパーツってのぁスゲェ高値で取引されるらしいじゃねぃか…』
カチリとライトのスイッチを入れると様々なガラクタが窪みの中程に埋まっているのが一目で分かる。レリーフみたいにクッキリとモノの形が浮かび上がっているのだから、あとは好奇心任せに掘り出すのみだ。
『うぉ…!コイツぁ驚いた…!こんな光景見せられちゃァ〜ウズウズせずにゃァいられねぇよ!』
最早剥き出し状態の獲物の数々に胸躍らせ、ヤマトは夢中で窪みを掘っていく。ザクリという音をなるべく最小限に抑えながら、慎重に、慎重にツルハシを振り下ろす。
極力静かに作業しなければならない理由をヤマトは知っていた。むしろトレジャーハンター業を行うならば誰もが心得ている、所謂《暗黙のルール》的なモノだ。
『深追いはしねぇ方が無難だろ…確かこの採掘場はヒグマ一家の縄張りらしいからな…』
今や世界中にわんさか存在するトレジャーハンター達の間には《縄張り》が存在する。それはまるで賊の一団同士で言うなれば《シマ》のようなモノで、このエリアを侵そうものなら容赦なく団ぐるみの襲撃に遭う事になる。どこまでも横暴な帝国と違うのは、人情味位だろうか。
『ちゃっちゃとお宝掴んでズラかんねぃと』
今ヤマトの背には一本の古い野太刀しか無い。ツルハシもいざとなれば武器位にはなるだろうが、この狭くて足場も悪い空間の中では地の利を把握しているヒグマ一家の方が有利だ。確実にかち合うのだけは避けた方がいい。ゴクリと息をのみながらヤマトは採掘に集中する。
その時─
《カンッ》
何か堅いモノがツルハシの先に当たり、軽く聞き慣れない音が聞こえた。金属のような音でなく、鉄筋では無さそうだ。
『オイオイ……こりゃあ…キタんじゃねぃの〜?“お宝”ちゃんが!』
高鳴る鼓動。
一瞬にしてヤマトの中のハンターの血が騒ぐ。軽く沸騰でもしてしまいそうな位に高ぶった感情を何とか抑えつつ、ツルハシを投げ置くと今度は慎重にノミやハケを使って掘り出していく。徐々に獲物の半身がようやく土の下から現れると、その“獲物”はヤマトの目を釘付けにした。
『キタ…キタかよ…とうとう…!噂も…馬鹿にできねぃモンだな!』
完全に掘り起こされ、シッカリとヤマトの手に握られたソレは如何にもといった感じで妖しく光っていたように見えた。
『コイツぁ…まさかの大物かもしれねぃ…!』