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南北の海峡 -The Split Fate-   作者: 伊東椋
第一部 2つの日本
3/63

01 MDL

MDL―――Military demarcation line.

:軍事境界線。


(注)この物語は、実在する国家、団体、事件等とは一切関係ありません。又、個人の主義、主張を表すものでもありません。


 41度線―――


 それは、南北に分断した日本の間に定められた軍事境界線である。

 北海道と本州を隔てる津軽海峡の中心線に設定され、北海道戦争(北側の名称:祖国解放戦争)の休戦協定の際に、北海道を領土とする北日本と本州以南を領土とする南日本の軍事境界線として宣言された。

 北緯41度線付近にあることから、41度線と呼ばれることが多く、又は北方軍事境界線と呼称されることもある。

 元々は大戦末期、米国と講和を成した日本に対し、ソ連が不可侵条約を破棄して侵攻し、北海道の半分を占領したのが始まりだった。ソ連は北海道の半分を占領下に置いたまま、留萌~釧路までのラインを設定し、日本人民共和国を建国させた。このソ連の思惑により、日本は南北に分断された。

 この日本の分断により北海道戦争へと至るが、結果的に北海道全土が北日本の支配下に落ち着き、日本は津軽海峡を境に分断国家へと至った。


 境界線付近約三海里は非武装中立海域とされており、休戦協定の内の規定によって双方の警備部隊が境界線付近の監視と警備を実施している。

 海峡は一見穏やかに見える時もあるが、どこか常に怪しい波のうねりがあった。


 海面を撫でるように、一陣の風が吹く。


 北方の風が吹く、冷たい津軽海峡。

 北海道と本州を隔てる海峡―――それは、政治的にも深く双方を隔てる海峡でもあった。


 その海峡は半世紀の間、冷たい風が吹き続けている―――

 



 冷たい風を薙ぐように、一機のヘリが飛行していた。そのヘリのすぐそばには、見えない境界線が引かれている。

 本州側―――南日本側の海上には、境界線付近を飛行するヘリをじっと見据えるように、一隻の巡視船が境界線の横に並行して航行していた。

 南日本―――海上保安隊の巡視船が、境界線ギリギリを飛行する相手のヘリに警戒心を抱きながら白波を立てていた。

 すぐそばに引かれた見えない境界線の上空には、北日本側のヘリがこちらからの警告にも関わらず近距離まで接近してきた。

 近年続発している北日本側の船舶による領海侵犯。その例は漁船や調査船が多い。南日本側はその度、再三警備に当たってきたが、向こう側の態度は日々エスカレートしていった。北日本側は態度を硬化させ、遂にはヘリ搭載の漁業監視船まで派遣される始末だった。

 北方軍事境界線、通称41度線は休戦協定の際に宣言されたものだが、北日本側の船舶等による侵犯が増加する傾向にあった。船で海峡を渡って脱北するケースを受け境界線付近の警備は南日本側より厳重のはずなのだが、それは自国民を逃がさないためだけであり、脱北以外の侵犯は黙認しているようだった。

 「こちらは日本帝国海上保安隊である。 貴機の行動は明らかな協定違反である。 境界線付近での行動を直ちに中止し、退去せよ」

 警告を呼び掛けるが、相手は応じる気配を見せない。ヘリは境界線ギリギリでの飛行を続け、母船は離れた場所で見守っている。

 前までは漁船や調査船が多かったが、最近になってはヘリ搭載の漁業監視船が出没するケースも目立つようになった。

 その船もまた、退役した軍艦を改造したと思われる装備を施していた。船首には30ミリ程度の機関砲などが見え、それなりの武装を積んでいるのが確認できた。

 対して海上保安隊の巡視船は軽武装。元々軍艦のような戦闘艦ではなく、あくまで治安上の装備しか許されていない船舶である。外装も一般商船等と大して変わり様がない。退役した軍艦と思われる相手の船と比較すれば、その差は歴然だった。

 境界線付近での軍の活動は、両国の平和と安定を脅かす。国内の政治家たちはその言葉を信じ、軍による直接警備によって生じる摩擦に配慮する方針を取った。そのために、日本の沿岸警備隊と呼ばれる海上保安隊が境界線付近の直接警備を一任している。そのすぐ背後には大湊の帝国海軍が身を待機させているが、最初に接触を受ける役を抱える前面には海上保安隊が常に立っていた。

 「なにかあったら、我々では太刀打ちできないな」

 双眼鏡から見える相手の監視船の武装を見て、初老の船長は溜息を吐いた。

 「更に、あのヘリも武装なんかしたらたまったものじゃないです」

 自分たちを挑発するように境界線ギリギリを飛び回っているのは、武装用の攻撃型も存在するZ-9ヘリコプターだった。最近出没するようになった漁業監視船に搭載されているヘリコプターであり、この機による領空侵犯も増えている状況だった。

 「……ッ、言っているそばから―――」

 Z-9ヘリコプターは突然ぐん、と機体を左に傾けると、そのまま一気に高度を下げながら境界線を突破した。巡視船は領空侵犯に対する警告を発する。しかし彼らは更に驚いた。

 「な…ッ!?」

 「近いッ!」

 相手はこちら側に入ってきただけに飽き足らず、そのまま船の目と鼻の先まで接近してきたのだ。自分たちの目の前に急接近したZ-9ヘリコプターは、避けるように左舷側へと通り過ぎてしまった。あっという間の出来事だったが、明らかな危険を伴う挑発行為に、巡視船の乗員たちは声も出なかった。

 相手の空に侵入するだけでなく、更に相手の巡視船へ接近するなど聞いたことがない。もしかしても武力衝突の要因にも成り得た。しかし彼らは躊躇なくやり遂げた。巡視船への急接近をやってのけたZ-9ヘリコプターは旋回すると、まるで嘲笑うかのように再び巡視船の目の前を通り過ぎ、一部始終を見ていた母船の方へと帰っていった。 

■解説


●41度線

南日本と北日本の間に定められた軍事境界線。北方軍事境界線とも呼ばれ、北緯41度線付近にあることから41度線と呼ばれることが多い。北海道戦争以前は、北日本はソ連が占領した北海道の半分を実効支配していた状態だったために留萌~釧路を線に結び、42度線

を定めていたが、北海道戦争(祖国解放戦争)の結果、北海道全土を掌握した北日本との事情を踏まえ、津軽海峡の中心線に新たな軍事境界線として設定された。休戦協定により境界線付近三海里を非武装中立海域として宣言されたが、近年、悪化する政治的事情から北日本側からの領海侵犯などが増えている傾向にある。


●北日本

正式名称、日本人民共和国。

ソ連の配下、北海道道北にて建国された社会主義国。日本共産党の一党独裁体制。北海道全土を掌握後、首都を札幌に定める。政治総省による厳しい監視体制の下、全国民を抑制している。独裁体制による圧政により、南日本への脱北を計る北日本人が出没するケースが増えており、脱北に対する取締を厳しく張っている。人民赤軍・人民海軍・人民空軍・人民国防軍の四つの系統を持つ人民軍を保有。世界唯一の被爆国(南北の海峡 零部参照)でありながら原子力潜水艦などの核を用いた兵器も保有しているが、原爆などの核兵器開発は確認されていない。経済や軍事は先進国としては充分だが、国民に対する監視体制など自由に対する弾圧は非常に厳しい。


●南日本

正式名称、日本帝国。

連合国と対等な立場で講和したため、史実と異なり大日本帝国の形態をほとんど受け継いでいる。君主制国家。

講和後、連合国の政治的介入によって憲法の改正や民主主義化が進んだ(その点に関して、対等な立場で講和したと言う見方が疑問視されることになる)

首都は東京。北海道戦争における軍需景気と高度経済成長により現在は米国に次ぐ経済大国となっている。北海道戦争後、陸海軍に空軍を加え、現在は陸海軍省が統合化した防衛省の下で陸海空の軍隊を保有している。米国とは安全保障上の同盟関係にある。現政権は北日本への以前までの強硬路線からの転換を主張、実施している。


●海上保安隊

北海道戦争後に創設された日本版沿岸警備隊。南日本周辺の海上の安全と治安の確保を図ることを任務としている。国土交通省の外局ではあるが、北日本との摩擦を配慮して、北日本との関係が一際悪化した1994年頃から海軍から軍事境界線付近での直接警備を担当するようになる。あくまで海上警察的な組織だが、境界線付近では常に軍事的緊張に立ち合う役を買わされている。


●Z-9

北日本側の漁業監視船に搭載されていたヘリコプター。人民軍も保有している。海上保安隊の巡視船に急接近すると言う挑発行為を見せた。




以前投稿させて頂いた作品は、この作品の前振りのようなものかもしれません。元々本作を主体に案を練っていたのですが、先に9月に投稿した作品は簡単に書き下ろしてみたものです。

本作は、前作と異なり時代は現代。日本が南北に分断してから、半世紀が経った頃の物語です。

また劣らぬ部分が目立つことになるかと思いますが、暖かい目で見てくだされば幸いです。


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