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たゆたう波の終わり  作者: 河野 る宇
◆最終章-たゆたう波の終わり
22/22

*報告

 ──オーストラリアから戻ってきたベリルは、とある報告をするためにカイルの元を訪れた。

「は?」

 リビングで報告を受けたカイルはこれでもかと眉間にしわを刻み、間抜けな声をあげて手にしていたバーボンのグラスを落としかけた。

「いまなんて言った。不老不死とか言ったか」

 斜め横の一人がけソファにいるベリルに困惑した視線を送る。

「はい」

 しれっと答えたベリルに、カイルはますます表情を険しくした。

「それ、マジで言ってんのか」

 いくらなんでも、そんなしらけた冗談に俺が乗っかるとでも思って──る訳はないか。

「そのようです」

「お前、どこまでだよ」

 こいつは初めからとんでもない奴だったが、まだとんでもない報告をしてきやがる。あり得ないだろ、ふつう。

 何百歩譲っても信じるのは難しい報告に、開いた口が塞がらない。

「いきさつは聞いたがよ」

 神様も随分なことをしてくれるよなあ。おい。

「休暇だったんだろ」

「はい」

「オーストラリアで」

「そうです」

「で、追われてた女の子を助けたら不死になったってか」

「かなり端折られましたが間違ってはいません」

 何度、聞いても信じられねえ。何か厄介なことに巻き込まれたという話は、かつての仲間から伝え聞いてはいたが──

「ちょっと待て。こないだの奴らと関係があるのか」

「何かありましたか」

「変な奴らに襲撃された」

「ラシードは」

「おい、俺の心配は──まあいい。人質にはとられたが怪我はねえよ」

「あなたに問題がないのは見ればわかります」

「年々、俺の扱いが酷くなってやしねえか」

「いつも通りだと思いますが」

「お前らしいよ。まったく」

「それで、どうしました」

「三人は警察が来る前に逃げたが、捕まった二人は引き渡した次の日に釈放されちまった」

 それにベリルは苦い表情を浮かべる。優秀な弁護士がいたのか、上層部に組織とつながっていた人間がいたのかは不明だ。

「そうでしたか」

「どう見積もっても、お前しか思い浮かばねえ」

 引退して長い俺があんな武装した奴らに狙われる理由はない。

「私の事を探ろうとしたのでしょう」

 詳細を知っているとするなら、あなた以外にいないと考えるのが普通です。

「お前、敵多そうだしな」

「組織は潰しましたから問題はありません」

 しれっと答えたベリルに、そういう問題かよと頭を抱える。

「ラシードのことも事後報告にしやがって」

「使わない事が一番でした」

「そりゃそうだ」

 ずいぶんとでかい組織だったようだし。これはこれで結果オーライとも言えるのだろう。

「それでいま、そいつらはどうしてるんだ」

「さあ」

「おい」

「完遂してそのまま別れましたから」

「砂漠にほったらかしか」

「ナビ付きのジープを渡しました」

「相変わらずクールだねえ」

 普通、不死になったあとは色々と悩むもんじゃねえのかよ。

「悩んでも解決の兆しはあるのかと」

「クール過ぎんだろ」

 不死を与える力は一度きりのもので今後、その少女や一族が狙われることはないだろうと聞いたカイルは「そうか」とつぶやき、

「それなら、使われた甲斐があるってもんだな」

「そうですね」

 ひとまずの着地点を得る。

「お前の計画、水の泡だな」

「それが解っていたから、私を弟子にしたのでしょう?」

「おう! 当然だ!」

 死にたい訳じゃない人間が、思った通りに死ねるとは限らない──カイルの言葉が見事に的中した。

 むしろ、どうあがいても死ぬ事が出来なくなったことに、さすがの俺もそこまでは考えてなかったなあとベリルを見つめる。

 なんか、ちょっと可哀想になってきたぞ。いくらなんでも、不死ってのはやりすぎだろ神さんよ。

「お前も不運というか、なんというか」

「受け入れる他はありません」

「お前らしいねえ」



 ──不死となったベリルは、多くの通り名を持つこととなる。当然、どれも気に入らない。

 これから彼を求める者は幾多になるのか、見当も付かない。その度に、彼はさらりとその腕からすり抜けていく事だろう。

 彼を同じ場所に留めておく事は非常に困難である。



 ベリルの戦いはまだ始まったばかり。

 何を想い、何を成すのか──見届けるのは、あなた。




END

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