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第三章「廃屋」 30
「離せこの野郎、馬鹿野郎!」アッシュは懸命にもがいていたが、巨大すぎるその手はびくともしていない。
「がっっ!!」その時、アッシュの骨の軽快に折れる音がこちらまで届いてきた。アッシュはその瞬間口から大量の血を噴いた。折れた骨が内臓をズタズタに引き裂く。
「うあああぁああぁあ!!!」ミシェルは叫び、ベレッタを抜いた。「アッシュ!!」そう吠えながらマックスとロバートも各々、銃を構えた。
しかし、引き金が引けない。どれだけ力を込めようと、発射点まで絞れない。
無駄だ。
今、3人の脳の組織全てがその言葉で侵されていた。訳の分からない強力な力が人差し指を止めていた。
その力の正体は、死への恐怖だった。
邪魔をすれば俺達も喰われるかもしれないーー。
嫌だ。
死にたくない。
死にたくない。
「あああああぁおあああぁぁ!!!!」アッシュの体がきしみを上げてさらに醜く歪んでいく。それに応じて、彼の顔がメロンみたくパンパンに、赤く膨らんでいく。握り潰されている下半身は腕も足も胴体も判別がつかない程の凄惨な状態になっていた。