第三章「廃屋」 21
だが、もうひとつ経路があった。地下駐車場だ。
出口入り口合計して2つあり、その内1つの方角が死の街道と真逆だった。
「決まりですね」ミシェルは呟いた。地下一階駐車場北出口。だがそこまで降りるのには目の前のエスカレータを降りていくだけでは駄目だった。このエスカレータ、下は一階までしか通じてなかったのだ。
ここからの最短ルートはまずこのエスカレータで1階まで降りてから30メートル程離れたところにある階段で地下1階まで降りる…だがこれが通常の世界だったら、例え祝日の人混みの中で満員電車のようにもがいていたとしても、この30メートルはそう遠くないと感じるだろう。だが、この非現実な世界では例え30メートルという距離でも敏感に危険を感知できるように神経をとぎ済まさなければいけない。
油断が即、人を殺す。
しかし、ミシェルの中では、いや、レジスタンスの中ではもはやノーアイズが闊歩するこの世界はもう「通常の世界」だ。前に述べたこともそうなのだ。2ヶ月経つとノーアイズそれ自体に対して全く恐怖を抱かなくなってしまうのだ。家の隣人がノーアイズでも平気でいられるだろう。
ならば、ここで言う「非現実」とは何か…?