第三章「廃屋」 13
4人は前を、1階の方を注視し過ぎた。ミシェルが振り向くまで後ろの惨事に誰も気付かなかったのだ。
ミシェルが段を登ろうとした時には既に彼の目の前でノーアイズが唾液にまみれた牙を向けて襲いかかっていた。
「…!!」ミシェルはノーアイズの不意な出現にたじろぎながらも、すぐさま腰からベレッタを抜いた。
次の瞬間、眼前で黒い花火が舞い散った。そのドローテクニックはジョンよりも数段上だった。腰からベレッタを抜くと、即座にその腰の位置で標的に銃口を向け、撃つ。その直後、ノーアイズの額に肉の鉱道が開けた。まず、銃弾は柔らかい皮膚を突き破り、皮下脂肪の中を血管を引き千切りながら掘り下げていく。そしてそれは頭蓋骨に収まっている脳髄を掻き乱し、そのまま頭部を貫通した。
ノーアイズの体は脊椎反射で一瞬引きつった様な動きを見せると、エスカレータの手すりから身を踊らせた。
しかし、まだ終わってはいなかった。身を踊らせたノーアイズの後には数匹のノーアイズ達がこちらへ押し寄せていた。そのノーアイズ達は暗闇の中、不気味に体をくねらせて(関節がまるで無いような動きだった)、黒い血の涙を眼窪から垂れ流していた。腐臭が立ちこめた。