52/186
第三章「廃屋」 9
その死体の致命傷…それは手跡だった。銃弾の鉱道でもなく、ナイフのレールでもない、ましてやグレネードのザクロでもなかった。ただの手の跡だった。
しかし、絞殺とは言い難かった。なぜなら、手形が巨大過ぎたからだ。死体の体全体を包み込むようにして食い込んだ手形…。死体が粘土のように見えた。これは圧殺だ。
見ると四肢が全てあさっての方向に折れ曲がっていて、ところどころがペーストの様な、凄惨なひしゃげ方をしていた。腹部からはアバラが皮膚を貫いて、そこからは腐った内蔵片が滲み出ていた。
何かいる。この店には巨大な何かが潜んでいる。
そんな予感が4人の脳裏によぎった。
突然、店内の闇がとても恐ろしく見えた。
引きずり込まれる…。
身震いをした。突如、闇の中から巨大な魔の手が出現し、この死体の様に圧殺されるのではないか。
先の見えない暗闇は、懐中電灯の光が殆ど届かない程強力だった。4人居るのにも関わらず、どうしようもない様な孤独感が彼らを襲った。
そして心臓の鼓動さえ聞こえそうな静寂の中、4人は再び歩き始めた。