第二章「腐食」 9
「静かに。」ジョンは息を潜めるように口元で人差し指を立てた。
ノーアイズは視力がない代わりに聴覚が発達している。だが、それほどといったものではなく、人間の1.3倍程度のものだという。
皆口を閉ざすと、微かな不快音が耳に入ってきた。どうやら、今からやり過ごす予定の前の連中のものだけではない様だ。周囲を見渡すと、暗いビルの陰、窓からノーアイズ達の頭がちらちらと見えかくれしていた。
早く行ってしまわないとな…。
ジョンはcome on、と手を仰ぎ、音を極力立てない忍び足で、進み始めた。他もそれに追従する。
皮肉屋ボブも、この時だけは黙っていた。口を開けた途端に怪物ディナーショーだ。笑えないね。
何故かこの凍るように寒い中、脂ぎった汗が額から流れ出した。
なぜだ?ジョンは思った。なぜこうも悪い予感しかしない?
ただ、静かに歩くだけだ。なのになぜ心臓がこんなにも跳ね上がっているんだ?
ノーアイズは未だこちらに気付いていない。順調に歩を進めている。
なのになぜ…
十字路まであと十数メートル…その時だった。
「う…う…あぁ…くぁ…!」突如レイが悶えだした。