第一章「月光」 15
「やべぇぞコレ…」店内に踏み入ると、足下のガラス片がピシと小さな音を立てて割れた。
まずカウンターが目についた。懐中電灯で照らすと、腐った食べ物が散乱していた。ボブのお気に入りのチキンバーガーが異臭を放っている。
キッチン…。ボブはカウンターの側の扉を開け、真っ暗闇の中、懐中電灯を頼りに進んでいく。清潔が売りのキッチンは埃にまみれていた。出しっぱなしの包丁は錆び付き、パテには黒いカビが生えている。すると、奥で何かを発見した。
糞だ。多分ここに住みついているブルのものだろう…。乾燥していない。
「…早くここからトンズラしてぇな…」急に孤独感が心臓にせり上げてきた。闇の中に呑まれていく自分。
キッチンを出て、連なるテーブル席の間を進む。途中にあった両目をえぐり取られた生首に目を背ける。
奥にはショットガンをくわえたブルはおらず、代わりに憂鬱なものが焦燥感に駆られたボブに追い打ちをかけるように存在していた。
階段だ。そうだった。二階があった…。あのブルは比較的大型だったからここを上るのは雑作なかったのだろう…。
音が聞こえる。耳を澄ますと、カチリ、カチリとごく小さな音が響いてきた。