第一章「月光」 8
「どうしたんだ!?急に!」
「あ…あれ…見てよ…!」マックスは震える指で後ろを指し示した。その指の方向を目で辿る。
すると闇の中、それは佇んでいた。何者かが車の陰からこちらをずっと見ている。
「なんだありゃあ?」ボブが首を傾げる。距離があるから懐中電灯の光が届かない。
「…無視だ無視…行くぞ。」襲いかからないのなら特に心配はない。ジョンはまた一歩歩んだ。
その瞬間、それは動き出した。佇んでいた車の陰から出てきて、こちらへ近づいてくる。
次第に輪郭が露わになってくる。
……。やがてある程度輪郭がでてその正体がわかった。
あれは犬だ。毛並みは白。
「マルチーズだね」レイが嬉しそうにして犬に近づく。
しかし、「……?!」その足は途中で止まった。そしてゆっくりと後ずさり始めた。
「…どうした?ワン公が怖いのか?」そのレイの行動を見て、ボブは少し嘲笑した。
次の瞬間、レイは犬から逃れるように走り出した。犬もその後を突っ走って追いかけていく。
直後、止めに駆け出したジョンはレイとすれ違い様にはっきりと見えた。犬の体表の白い粘膜。眼窪には在るはずの眼球がない…。
犬もジョンの横を通り過ぎた。