15/186
第一章「月光」 5
「この匂い…来ますね…」ミシェルが小さく呟くと、皆の元にも匂いが届いたらしく、各自武器をゆっくりと抜いていった。
「あーこの匂い嗅いでるとさっきのチャイ吐きそうだ…」ボブが肥満気味の腹をさすった。
「止めて下さい、汚らわしい…。」
「なんだその言い方。アメリカンジョークがわからん奴はイヤになるね」
「貴方南米出身なのでは…?」
ボブは黙ってしまった。それに全く面白くない…、とミシェルが付け加えると、突如
シッ…! ジョンが口元で人差し指を立てた。「静かに…!」
ざわめきが消えた。
静寂の中駆け巡る、荒んだ風の音。暗闇の中、先ほどより勢いが増した雪が月の光を浴びて銀の様に輝く。そのまま月の光は廃屋と化した石造りの住居を優しく包み込み、散らばった残骸達を抱いていく。
そしてその崩壊美の世界の中で車の群れの陰から腐敗臭と共に、粘着質の音と共に、無数のただれた頭が蠢きだした。
ノーアイズだ…。