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第一章「月光」 3
ボストンの街並みは美しかった。
歴史を刻んだヨーロッパ風の住居を、代を次いで使っていた様子はまるで異国のようだった。2ヶ月前までは。
だがそれは今、死都と呼ぶにふさわしい、凄惨なものへと変貌し果てている。
ジョン達が歩みを進め、やがて車の群の中の少し開けたところに出ると、突如脱獄囚のロバートが歯ぎしりを立てる。眼前にある一台の黒い普通自動車の中を覗いていた。
「クソが…!」
車内にあったのはロバートが所属していたマフィアの仲間の死体だった。
切断された四肢が細切れになって血の海に散乱し、裂かれた横腹から飛び出た腸がとぐろを巻いている。
しかし、ロバートは仲間の死に歯ぎしりしたわけではなかった。
その死体が新しいものだったからだ。
車内の血痕が乾いていない。
そして、死体の口元が突然痙攣したように動き出した。
「…死に…た…くな……死…に…」哀れな事に死体と思っていたそれはまだ生きていた。
無意味な悲惨な掠れた小さな叫び声だった。そいつの目が、ロバートの方をギロリと向いた。片目だった。
「ろ…ロバ…ァト…ロバ…ァ…」