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第六章「瞑想」 11
クソッ!!しくじった。
ヒグマの常套作戦じゃねぇかよ!!
「止め足」。
己の命を狙って追跡する猟師を殺す為のヒグマの技。茂みのある適当な所で歩を止めて、今までに作ってきた足跡をそっくりそのまま踏みつつ後退し、茂みの中に隠れる。すると、後からやってきた猟師達からは足跡が突然消えたように見えるが、ヒグマはすぐ隣の茂みの中にいる。猟師が動揺した隙を見て、ヒグマは茂みからいきなり現れ、脳天に一撃。瞬殺。という寸法だ。
それが今、再現されたのだ。
ショーケースに叩き付けられるボブの体。ショーケースのガラスが割れ、そのガラス片が体中を突き刺した。
一瞬で無数のガラス片で全身ハリネズミにされたが、一番痛烈だったのは、右足だ。靴の先が明後日の方向に向いている。その激痛は殆ど麻痺に近い、熱がこもったような痛みだった。