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第五章「地獄」 6
「腕を…床に…」
「ああ…」ロバートはそれに従った。パニックで灼かれていく脳が言葉をふるわせる。
深呼吸。しても何もならない。吸った空気が重過ぎた、熱過ぎた。余計に胸が苦しくなる。窒息死してしまいそうだ。
肺が焼け付く。脳が灼け付く。手を震わせる。心臓が狂い出す。異常なオーバーヒートを見せる身体。
何もしていないのに汗が滲む。喉が渇く。
気が狂ってしまいそうだ。
包丁を持つ手が緩む。
だが、今やらねばロバートが死ぬ。仲間が死ぬ。共に歩んできた戦友が死ぬ。
嫌だーー
包丁を再び握りしめた。痛い程に、折れる程に。
次の瞬間、ミシェルはロバートの腕にかけた包丁を、全体重をかけて押し込んだ。