9話 ハルカの旅立ち
錬金術には色々ある。
魔道具の刻印を得意とする人もいれば、ポーション
等の薬品を得意とする者。
病などの感染症や常備薬などは材料も安価で誰もが
手を出すことが多い。
しかし、幻惑ポーションや魔道具、魔道回路の構築
には高い知識と技術が必要となる。
ましてや、見様見真似でやろうものなら爆発を起こ
す危険性だってあるのだった。
それをハルカは幼いながらに自分のモノとしていた。
師匠が優秀といえど、そう簡単なことではないのは
誰もが知っている事だ。
それを一年もの間、師匠の死を隠し通したのだ。
「もうそろそろ引き際かな…」
ハルカは荷物をまとめると小さな袋に詰め込んだ。
これはこの世界で初めて作ったマジックバックだ
った。
作成には師匠の手を何度か煩わせてしまったが、初
めてにしては上手いと褒められたものの一つだった。
そこには多くの物が仕舞える。
そして、それをいつも着ている服の内ポケットに縫
い付けておいたのだった。
錬金塔で過ごした時間はたったの六年だったが、決
して短くもなかった。
中に置いてあった錬金鍋や道具を全部仕舞い込むと
外へ出たのだった。
風が心地よかった。
もうすぐ暑い季節だろう。
出て行くなら丁度よい気候かもしれない。
今まで過ごしてきた錬金塔を眺めると、ぺこりと頭
を下げた。
「師匠……」
ハルカは区切りと言いたげに、今まで過ごした場所
に敬意を評した。
「師匠、行ってきますね。本当は師匠と一緒に行き
たかったけど……この世界を探検するのも楽しそ
うだから……」
「おい、どこへ行くつもりだ?」
思い出にひたっていると、後ろから声がかけられた
のだった。
毎日暇なのか、ここに来てはハルカを勧誘という名
の口実にしたメノウが後ろに立っていたのだった。
「しつこいです……僕がここから出ていけば問題な
いでしょう?すぐに出て行くので、安心して下さ
い……これでいいでしょう?」
「おい、そういう事じゃねーんだって!お前さぁ〜
あのジジイに色々教えてもらったんだろ?だった
ら……」
「関係ないです。それに名前も知らない人の言葉な
ど聞くに値しないですから」
ハルカは小さな鞄を手に持つと歩き出した。
簡単な衣服しか入っていないせいか、鞄は結構軽い。
「おいって……」
「……」
無言で歩き出すハルカを必死で引き留めようとする
が、ハルカはメノウに関わる気はなかった。
師匠はメノウがいつも突っかかってくるのが面白い
と言って、相手をしてやっていた。
優秀な師匠でも、メノウを揶揄うのは楽しいようだ
った。
塔の上からそっと覗いていたからだ。
師匠は話相手すらいない。
こんな塔に居て、幸せだったのだろうか?
ハルカだったら、たった一人の時間というのは、と
ても虚しく、寂しいものだった。
一年もの間、ここを離れなかったのは師匠との思い
出が詰まった場所だったというのも、あったが。
それ以上に、いつか師匠が帰ってくるのではないか
と思ったからだった。
その日から、師匠の姿になっては薬を作って、城へ
と届けていた。
誰かにバレる事もなく、新しい技術の開発に励んだ。
師匠の名声は、どんどん上がっていった。
たまに嫌がらせのように、赤の塔からの使者が来た
が、すぐに追い返した。
ボロが出ると困るからだ。
それも、今日でおしまい。
ここを出て、新たな地へ行こう。
そう思うと、胸が弾んだのだった。




