6話 ハルカの生い立ち
綾瀬遙。
彼はいたって普通の現代人だった。
友人もいて、優しい両親にも恵まれて、ゲームに
小説を読むのが好きな一般的な青年だった。
年を重ねる毎に、日々に疲れを感じて居た。
大学を卒業後、就職してからはゲームも、小説も
読む時間すら取れなくなって居た。
そんな時、いきなりこの世界に来たのだった。
よく異世界あるあるでいう、召喚とかでもなく。
死亡した記憶もない。
ぽっと、この世界に落ちたと言った方が正しいだ
ろう。
それと、もう一つ。
年齢と容姿が変わってしまっていたのだった。
手足は短くなり、声も幼女のような声に聞こえた
のだった。
服はスーツを着ていたはずが、薄い布一枚着てい
るだけで、まるでワンピースのような被るだけの
布になっていたのだった。
「う……そ、だろ……」
一瞬呆けてしまったが、ここがどこで、自分が今
いる状況が一切わからず戸惑って居たのだった。
まずは場所だが、平原というには少し違う。
木は多いが、家は見当たらない。
今は何時かもわからないが、頭上に沈みかける陽
がある事から夕方だと推察できた。
「そこにいるのは誰じゃ?」
そこにしわがれた声がかかってびっくりすると、
一筋の光が差した気がした。
「なんじゃ?迷子か?」
「え……あ……あの…」
なんと説明していいのか悩むと、言葉が出てこな
かった。
その老人は何か悩む仕草をすると、自分の持って
いたパンを差し出してきたのだ。
「食べるか?」
「え……いえ、あの……」
あたふたしていると、ぎゅるるっと自分のお腹の
音が響いた。
「は……はい…」
顔を真っ赤にしながら受け取るとパクッとパンを
口にした。
硬くて美味しいとは言えなかったが、何も食べて
居ないお腹には硬くて噛みごたえのあるパンは、
少し辛かった。
その日からその老人の家にお世話になるようにな
った。
その老人は大きな塔に一人で住んでいるらしい。
「あの……なんとお呼びすれば……」
「あぁ、わしか?わしは……メルバルト・ファオ
ニンじゃ。面倒なら師匠でも良いぞ?」
「メルバルト……師匠……でも、僕は弟子では…」
「ここはのう〜錬金塔と言っての、ここで錬金術
の研鑽を積む所なんじゃ。お主もやってみんか
の?」
「僕は、ハルカです。綾瀬遙…」
「聞きにくい名前じゃのう、もしや異世界からの
迷いびとかの?」
「迷いびと?僕と同じような人がいるんですか?」
「うーむ。なるほどのう…それなら尚更、ここで
この世界の知識を身につけるといい。きっと役
に立つはずじゃぞ?」
そう言うと、あらゆる知識を教えたのだった。
ハルカが来てから、この塔に住んでいるのがこの
老人一人だと知った。
昔は何人もの錬金術師がいたらしいが、あまりに
やる気がない連中だったので追い出したと言って
いた。
ちょっと変わった老人ではあったが、真面目に話
を聞いていれば、楽しいほど色々な事が出来るよ
うになっていった。
「この錬金鍋はここでいいですか?」
「あぁ、そうじゃのう……おぉ、よく洗えておる。
ハルカはやる事が丁寧じゃのう。では、明日は
面白いものを見せてやろうかのう」
ハルカが笑いながら過ごせるのも、この老人のお
かげだろう。
あのまま誰にも会わなかったらと思うとゾッとす
る。
どこかもわからない土地で、人のいる所まで行く
のも大変な事だった。
ハルカはこの世界に来て、初めて自分の容姿を見
た時はとても驚いたのだった。
黒目、黒髪の、年齢は10歳前後だったからだ。
このハルカを見つけてくれた老人は少し変わって
はいたものの、凄く親切だった。
ハルカがわからない事はなんでも教えてくれたか
らだった。
「これは何に使うのですか?」
「これはのう…見ておれよ」
そう言うと、からの鍋に杖をぽっと触れるといき
なり透明な水が溢れた。
その不思議な現象に驚き、目を輝かせるとそのま
ま近くにあった草と鉱石を手に取ると中に入れた。
まるで透明な水に溶けるようになくなっていく。
「水じゃない!?」
「そうじゃのう、これはただの水じゃ…じゃがこの
鍋は普通ではないのう」
杖を鍋の中に差し込むとぐるぐると回す。
さっきまで透明だった水が色づき始めたのだ。
まるで手品でも見ている感じだった。
何もない鍋から水が湧き出て、鉱石や薬草は入れる
だけで溶けていく。
もし手を入れたらどうなってしまうのだろう。
好奇心が湧くのを止められなかった。
「あのっ、これって手を入れたら溶けてしまうの
でしょうか?」
勇気を出して聞いた事があった。
その時の師匠の顔は、呆れと言うより驚きだった。
「そうか、知りたいか?では、入れてみるといい」
「えっ!……でも……」
「やってみれば分かることじゃ」
この老人は人にそんな危険そうな事をやらせるの
か!!
一瞬驚きと、怒りを覚えそうになったのだった。




