35話 同盟と婚約
オスタリア公国にファルマン公国から使者が来た。
それは、第一皇女ロザリアの訪問だった。
今年で16歳になられるとあって、結婚相手として
イーサを指名していると言うのだった。
ファルマン公国には一人娘のロザリアとその弟の
ウィリーがいる。
オスタリアとの同盟を強固なものとする為と言う
が、実際にはロザリアのたっての希望なのだとい
う。
本当なら、メノウが婚約者候補だったのだが、彼
は今国を出奔している。
罪状は貴族への殺人未遂となっている。
豪勢な馬車がオスタリア公国へと入ると、誰もが
好奇な眼差しを向ける。
城に着いてからは、晩餐会が開かれ国中にイーサ
の婚約話が伝えられたのだった。
「イーサ様、お会いできて光栄ですわ」
「私もです。ロザリア嬢。ロザリア嬢と婚約できて
私は幸せ者ですね」
「まぁ、そのような言葉を言っていただけるなんて」
頬を真っ赤に染めながら恥いる彼女をエスコートし
ながら、父との前では仲良く演じたのだった。
晩餐会を終えて自室へと帰るとイーサはタヒソを呼
ぶように指示を出した。
タヒソが来るまではベッドに寝転がると目を瞑った。
コンコンっと軽い音が響くと中から声がかかる。
「入れ」
「失礼します」
タヒソが部屋に入ると、だらしなく前をはだけさせ
たイーサが座っていた。
「例のはできたのか?」
「はい、一応は……ですが…」
「なんだ?」
「少しばかり反応が……」
そう言って、試作品を渡したのだった。
一度毒を盛られてからは、毒味無しでは食事も食べ
れなくなった。
お茶を飲む事も、今は全て取りやめている。
だが、ロザリア嬢がいる前で何も食べないでは、あ
まりにも失礼過ぎるとあって、前にも言っていた魔
道具の開発を急がせていたのだった。
宝物庫にあったメルバルト・ファオニン作の魔道具
は実に優秀な物だった。
優秀過ぎて父のマーロ公爵からは持ち出しを禁じら
れるほどだった。
実際には国を譲るまでは、まだ宝物庫の物に手を出
すなと言われてしまったのだ。
少し見るだけならと、説得して何度かタヒソを連れ
て見に行き、劣化版でもいいから同じ物を作るよう
に命令しておいたのだった。
そして、やっと試作品にこぎつけたという訳だった。
それも、これも皆、一年ほど前にタヒソに設計図を
見せてくれたおかげだという。
「あの人も、珍しい事をしたものだな」
「その事なのですが……我が師はあのような事をす
る人ではなかったと思うのです。いくら年をとっ
たとしても…です」
「それはなんだ?別人がなりすましていたとでも言
うのか?父への謁見も、会話も、全く可笑しい所
はなかったように見受けられたが……」
一年数回、自作の魔道具を発表してもらう事があっ
た。
その時はメノウや、イーサも参加していた。
嫌味ったらしい性格の偏屈ジジイというイメージは
全く変わりなかったように見えたのだ。
「ですが、私の知っている師は…人に設計図を見せ
るなどありえないという性格だったのです。苦労
もせずに模倣するような者を毛嫌いしていたから
です」
「そういえば、昔にファオニンのを盗作した者がい
たらしいな…」
「そのようです。」
ファオニンがまだ若い頃。
城に入りたての頃、師匠にあたる錬金術師の先輩
達が、魔道具作りに煮詰まっており、まだ駆け出
しだった者達の作品を自分の作品として発表した
事があったのだった。
錬金術師は寝ずに考えた設計図を盗まれ、あたか
も苦労して考えたなどと、軽口を言われその時は
誰も裁かれなかった。
それ以来、ファオニンは誰にも自分の手伝いをさ
せなかった。
ましてや、自分の机に近寄ろうものなら、激怒し
たほどだという。
それは、弟子に対しても同じだったらしい。
それが、最近は幼い子を可愛がっていると言うの
だから信じられなかった。
何度か、見に行ったが、あわせては貰えなかった。
そして、師匠と話す事はめっきりなくなっていって
しまった。
だが、その頃からか、師匠の態度が和らいだ気がし
た。
そして、一年前に勇気を出して話かけたのだ。
「師匠!あの……さっきの魔道具ですが……」
「なんじゃ?ケチをつけに来たのか?性能なら誰にも
負けやせんのじゃがな〜」
「はい、すごいと思いました。私も作ってみたいと思
うのですが……なにぶん、どうなっているのか分か
らず……」
「そうか?気になるか?はっはっはっ、好奇心がある
のはいい事じゃな。少しなら見るかの?」
「いいのですか?」
「あぁ、じゃが……最後のピースは自分で考えるんじ
ゃよ?」
そう言って、設計図を見せてくれたのだった。
数分だったが、詳しい説明もしてくれた。
だが、説明中も他人に教えているという感じがした
のだ。
昔は師匠と弟子だったのだが、その面影は全く感じ
られなかったのだった。




