34話 オークションの警備 (4)
師匠の名前を出すだけで信頼度がグンっと上が
ったらしい。
勝手に売買出来ないと言うと、すぐに引き下が
るくらいには影響力があるらしい。
「実に残念だな……あの方の作品となると、売
ってはもらえまい」
「はい残念ながら……」
「気に入った顧客にしか売らないという偏屈な
ところは相変わらずなのだな…」
「師匠を知っているのですか?」
「あぁ、知っているとも。君があの人の弟子だ
と言うのなら納得がいくよ。これからも娘と
の交流をして貰えるとありがたい。君の作品
などはないのかな?」
「それは……ありますが、ポーションが専門で
して…魔術回路は簡単なものだけです」
「それはぜひ、うちで扱わないか?」
ハルカの言葉にレステルは身を乗り出してきた。
力では敵わない相手を制圧する幻覚ポーション
や、催眠効果のあるポーション。
魔物を寄せ付けないポーションなど持続時間さ
え守れば有意義なものばかりだった。
在庫は鞄の中に沢山あったが、ここは少ない事
を主張する事で、価値を上げる事にしたのだった。
レステルとの取引きの書類も書かされる事にな
ったが、結構言い値で売れたのだった。
♦︎♦︎♦︎
その頃、メノウはと言うと。
「なんで俺がこんな事しなきゃいけねーんだよ!」
下水の処理の為に街の地下へと来ていた。
街の下を流れる下水道には、色々な物が流れてくる。
その処理を放置しておくと街の上にまで臭いが漏れ
出てきて、大変な事になるのだ。
だからギルドの方で、稼ぎの悪い冒険者を募っては
掃除で稼ぎを斡旋して生活を助ける役目を果たして
いた。
メノウのように採取依頼を受けても正規の報酬が出
せないほどの人間は稼ぎ的にも生活に苦労すると判
断されたのだろう。
あながち間違ってはいない。
この国を出る為の旅費を稼いでいるのだが、メノウ
は一向に貯蓄が出来ていないのだ。
それもそのはず、稼ぎの全てを宿代と食費で使って
しまっているのだから。
ハルカのように、別の稼ぎ口があるわけでもないの
で、冒険者として働く他はない。
だからといって討伐依頼を受けようにも、討伐依頼
はパーティーを組まないと受ける事ができない。
ハルカは決して討伐依頼を受けようとしなかった。
『僕は戦闘には不向きなので…』
それ以上は何も言わなかった。
確かに魔法は貧弱でも、魔道具がすごいのだ。
あの魔道具さえあれば、どんな討伐依頼でも簡単
にこなせる気がする。
だが。それをハルカは受け入れなかった。
そのせいでメノウも一人で出来る依頼を探すと、
薬草採取か、今やっている下水処理になってしま
うのだった。
身体中に臭いが染み付いていく気がする。
それでも汚れの塊を魔法で燃やし尽くすと汚れた
水にはギルドから渡された粉を水に混ぜると、ゆ
っくりとがだ綺麗になっていく。
「まだ先が……嘘だろ……」
今日参加したのはメノウだけではなかった。
10名近くの冒険者が参加していた。
決められた区間を綺麗に掃除するとあとは確認の
為に人が派遣される。
陽が落ちる頃には、メノウに割り当てられた区画
が終わった。
「終わったぜ」
「では、確認してきますので、そこでお待ちくだ
さい」
「はいはい…」
待つ事、数分。
係の人が戻って来ると、書類にサインをしていく。
「大丈夫です。では、こちらでサインしますので
綺麗にしてからギルドの方で報酬をお受け取り
ください」
淡々と報告をすると、次の冒険者に呼ばれて行っ
てしまった。
「これで銀貨10枚か……」
城で暮らしていた時には考えもしなかった。
お金を稼ぐと言う事がこんなにも大変だという事
が……。
欲しいものは、言えば用意してくれたし、それが
当たり前だった毎日。
城を出て、他国に来ると誰もメノウの事など知ら
なしい、見向きもしなかった。
助けてくれるような優しい人もいない。
一緒に国を出たハルカさえも自分で稼げと言って
きた。
「剣も握れねーくせに……」
剣も握れないのに、あの凶暴なボアを仕留めたの
だ。
彼に出来るのは錬金術で作るポーションや魔道具
くらいだった。
それもあの、有名な錬金術師であるファオニンの
後継者なのだ。
本人は否定しているが、あきらかに他とは違う才
能があるのだ。
メノウが生き残るには、どうしてもハルカの力が
必要だった。
無実を晴らして国に戻るにも、他国で暮らすにし
ても…。
どちらにしても金がいる。
今、稼げる手段といえば、数日に渡って依頼があ
る下水処理の仕事だけだった。
これは1週間続く。
今のうちに稼げるだけ稼いでおくしかメノウがお
金を貯める方法は見当たらないのだった。




