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黒の錬金術師  作者: 秋元智也
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21話 赤の塔の主 (4)

師匠に限って、国を見捨てて別の国へと行くはずは

ない。


タヒソ男爵はそう思って取り合わなかった。

だが、その年から師匠は変わってしまった。


まるで別人がなりすましているかのように、人当たり

がよくなって、技術も精密さも格段に増したのだった。


師匠以外に、ここまでの技術を持つものはいない。

そう思っていたからこそ、別人説を誰も信じなかった。


だが……今思えば、あまりに変わった気がするのだった。


もし、師匠に弟子がいて、その弟子が優秀で、まるで

師匠が今も生きているように偽装していたとしたら?


もう、それだけで国宝級の錬金術師という事になるだ

ろう。


タヒソはそんな考えを持ちながらイーサに会いに行っ

たのだった。


今日は、部屋に備え付けられているテーブルで食事を

取っていた。


「イーサ様、今、よろしいですか?」

「あぁ、構わない。今、食べ終えたところだ」


メイドがお茶を淹れるとすぐに食器を片付けて下が

っていった。


「さぁ、そこに座ってください」

「はい……あの……」

「仕事の話というのは嘘ですね。では、要件を聞き

 ましょうか」


イーサは、病み上がりだというのに、しっかりとし

ていた。

タヒソが言いたそうな事を察して、人払いも済ませ

ていたようだった。


「この度の件ですが……気づく事が出来ず……」

「いや…それはいい。あの席には大臣達もいた。そ

 れなのに毒を飲んだのは私だけだった。実に奇妙

 だと思ってね」

「その事ですが、今毒を見分ける魔道具を製作中で

 して……」

「それは素晴らしい。やはり頼りになるな。君を選

 んで正解だった」

「いえ、それで……参考にしたい魔道具がありまし

 て……宝物庫に行きたいのです」

「宝物庫に?それは、まさかメルバルトの魔道具か?」

「………はい」


すぐに理解したのだろう。

それほどまでに凄い師匠であった、メルバルトの作品

は国宝級なのだった。


「なるほど、いいだろう。明日には入れるように父に

 言っておこう。ただし、行く時は私も一緒に行こう」

「はい、もちろんです」


メルバルトの作品は、どれもが規格外過ぎた。

あまりにも精密だったり、極端に特化し過ぎたりで悪

いわけではないが、あまりにも量産するには価格が高

くなり過ぎてしまうものが多かったのだ。


もちろん、原材料を自分で取って来れる人にはそう高

価ではないのかもしれないが、普通の一般的な感覚で

いうなれば、材料を買うお金だってばかにならない。


そこに高度な魔道回路を組み込む事で、誰にも真似で

きないほどの高性能な魔道具が完成するのだ。


「あの、イーサ様……お話しておきたい事が…」

「メノウ兄さんの事か?それとも…メルバルトの事か?」

「師匠だったメルバルトは……多分ですが、1年前には

 もう……」

「………?」

「ずっと城で会ったメルバルトの姿をした人物は、師匠

 が拾った孤児ではないかと…」


イーサが怪訝な顔を見せた。

1年前といえば、街を挙げて大きなお祭りがあった時だ

った。

異国の人が祭りに参加したりと、城の警備も大変だった

のを覚えている。


そして、そのあともメルバルトは城に魔道具を何度か献

上しにきていたのだ。


性能も申し分ないほど高性能で、量産品としてはあまり

に高価だと言って宝物庫に仕舞われる事となったのだっ

た。


それには、イーサも毎回立ち会っていたので覚えている。


『民の暮らしを安全に、便利にする為に必要だと思って

 作ったんじゃがな〜、宝物庫なんかにしまい込んでは

 作りがいがないのう』


少し皮肉った言い方が彼らしいといえた。

老けた顔は確かにメルバルトだった気がする。


「間違いなく彼だったと思うが?」

「師匠が弟子として連れてきたのは10才の子供だった

 そうです。今は16才だと。黒目黒髪が珍しく一部の

 錬金術師の中でも彼の存在は特別視されていたので

 す。」

「特別視?それはどうしてかな?」


イーサの質問に、タヒソはずっと思っていた事を口に

したのだった。


「あの師匠に気に入られていたからです」

「あぁ……なるほど」


メルバルトという人物は、本当に偏屈な老人だった。

若い時もそうだったが、誰かに媚を売るような性格で

はなかった。

我先にとなんでも手をつける好奇心旺盛なところがあ

った。

その為、退屈な弟子はすぐに辞めさせたりもした。


その中でも、タヒソは長く続いた方だと思う。

だが、結局二年も持たなかったのだ。


それが、六年も一緒にいたというのだ。性格には五年間

だが。


それでも、あの師匠と一緒にいるというだけでも才能が

あったのだろうと思えた。

退屈を嫌う師匠が、追い出さないわけがないからだ。


そうして、師匠のいない間にも魔道具を作って、しかも

師匠と寸分違わぬほどの精密さを誇れるのは並大抵の

才能ではない。


まさかそんな人物がメノウと組んでイーサを殺しにか

かるだろうか?

それにはイーサも疑問だったらしい。


どうして自分だけ毒を飲んだのか?

他の大臣達は、どうしてピンピンしているのか?


「私が飲んでいた紅茶のカップは取ってあるかな?」

「はい、あのままで保管してあります」

「では、紅茶の葉っぱとお茶菓子も?」

「それが………すぐに確認させましたが……一足遅く」

「なるほど……では、メイドは今牢に?」

「それも……毒を飲んで自害しました。証拠の毒も

 もう……」


全てが、なかった事になっていたのだ。

これでは犯人どころか、メノウが犯人としか思えない

ようになっていたのだった。


「そのメルバルトが育てた青年に会ってみたいな」

「それなのですが…牢から脱獄して今は行方をくらま

 せております。北の門をメノウ様が通った形跡があ

 った為、ナニス王国との検問を強化しましたが…」

「来なかったのだろう?となれば、アネスタ王国か、

 ファルマン公国だが……ファルマン公国はないと

 見ていいだろう。腕のいい錬金術師なら、目的地 

 はペリドット王国だろう。そこまでの道を全部塞

 げば、捕まえられるだろう」


イーサは陸路だけでなく、海路も警戒すべきだとい

ったのだった。








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