2話 兄弟
オスタリア公国の第一子として産まれたアウグスト
・イーサは父のマーロの話を聞いてから錬金術塔へ
と来ていた。
功績を挙げるには、まずは名を売る必要があった。
それには日常生活をより良くする為に、日々研鑽を
積んでいる錬金術師達を味方につけるのが一番だと
考えたのだった。
いつも留守にしがちな青の塔より、赤の塔を選んだ
のは錬金術師達の数も関係している。
いくら腕が良くて知識が豊富であっても、年老いた
老人の話など長々と聞く気はないからであった。
専属の騎士をつれだって塔の前まで来ると、今日も
眠そうな顔をした錬金術師達が出て来た。
「この塔の責任者を出しなさい。今すぐに…」
イーサが言うと、眠そうにしていた彼らは深いため
息を漏らした。
「誰ですか?ここは錬金術を学ぶ場所ですよ?お引
き取りください」
「では、今この場にいる者を叛逆罪で捕えよう」
「なっ……何を……」
側に控えていた騎士によって一人、二人と地面に押
さえつけられると拘束される。
無視して行こうとしていた錬金術師達が一気に目の
色を変えて逃げ出したのだった。
「逃げる者は全て全員切り捨てるように、それでも
いいなら逃げても構わないが?」
「……」
イーサのその一言で、その場から逃げようとする
者はいなくなった。
その騒ぎを聞きつけたのか奥から一人の学者風の
男が出て来た。
年は40代後半だろうか?
少し白髪混じりの男性だった。
「この塔の責任者の、タヒソ・エクドールで合って
いますか?」
「これはマーロ公爵のイーサ様ではありませんか。
大きくなられて…はて、ここにはなんの用事で?」
その男は飄々とした物言いでイーサに質問してきた
のだった。
イーサは騎士に合図を送ると後ろに控えるように言
う。
「一緒に来てくれませんか?」
「それはまたどうしてですか?私は忙しい身でね」
「無論、拒否権はありませんよ?…縛って連行され
るか、それとも自分の足で来るか…選んで下さい」
「それは困りますね〜少し待っていて下さい」
そういうと、男は奥へと戻っていった。
逃げるとは思っていない。
いや、逃げられるわけはないのだ。
この国で生きていく限り絶対に逆らってはいけな
い人達なのだ。
荷物を鞄に詰め込んだのかぱんぱんに膨らんだ鞄
を持って現れたのだった。
「お待たせしました〜」
「では、行きましょうか」
イーサは城へと戻ったのだった。
♦︎♦︎♦︎
イーサの動きを知ったメノウは慌てて青の塔へと
向かったのだった。
正妻の第一子であるメノウは当然マーロ公爵の後
を自分が継ぐものと思い込んでいた。
だが、この前の父親のマーロの言葉のせいでイー
サにも後継者としての資格がある事を改めて知っ
たのだった。
いつも余裕を持って生活して来たせいか剣術も魔
術もサボりがちで、いつでも優秀なイーサが優遇
されている気がして気に入らなかった。
それでも、正妻の子という有利な状況はいつでも
メノウの自信につながっていたのだった。
「なんでこんなことに……、おい。護衛の騎士は
どこのいる?」
「はっ……今イーサ様と訓練場におります」
「イーサだと?」
「いえ……あの……この時間は剣術の訓練の時間
でして……」
部屋の前にいた兵士はしどろもどろにメノウが
剣術の講義をサボっているという事を柔らかく
いいはなったのだった。
「くそっ……どいつも使えねーな…もういい!」
メノウは馬小屋へと向かうと自分の馬を連れ出
すと、錬金術師のいる青の塔へと向かった。
赤の塔の最高指揮権を持つ者をイーサは連れて来
たとメイド達が話していた。
なら、それに対抗するには、ライバルである青の
塔の老人に頼るほかない。
が、その老人は偏屈で説教が長いという。
「全く、どうして俺があんなジジイに頼るなんて
……」
メノウが一番得意なのは乗馬だった。
剣術も歴史学も、魔法もどれもイーサには敵わな
かったが、乗馬だけは唯一勝てるのだった。
思いっきり手綱を取るとスピードを上げた。
この時だけが唯一気が晴れる気がした。
「やっぱり、最高だな……」
ポツリと漏らすと、青の塔が見えて来たのだった。
古いせいか近くに来ると、今にも壊れそうだった。
予算も国方からたんまり出ているはずなのだが、塔
の修繕には回っていなかったようだった。
「なんでこんなにボロいんだ?あのジジイ予算を
がめてるんじゃねーよな?」
塔の入り口にあるドアを何度か叩く。
叩く度にぽろぽろと木屑が落ちてくる。
ドンドンッ…ドンドンッ……。
「おい、誰もいないのか!おい、ジジイ、さっさと
出てこい!」
乱暴に叩くとやっと来たのか、ギィ〜っと音を立て
てドアが開いたのだった。




