18話 赤の塔の主
メノウ達が牢から脱獄してから、数ヶ月が経った。
イーサの容体も落ち着きを見せると、ベッドから
起き上がれる程になったのだった。
赤の塔の錬金術師は、師匠であるメルバルト・ファ
オニンへ会いに来たのだった。
最近は城ですれ違う程度で、あまり話をする機会も
なかった。
弟子を辞めてからずっと、顔すら合わせなかったの
だ。
だが、イーサが毒に倒れられ、どうにも助言を貰い
たくて青の塔を訪れたのだ。
だが。そこはもぬけの空で、何もかもが無くなって
いたのだった。
実験に使う道具も、材料も、機材一色全部が無くな
っていたのだ。
師匠は古いものでも長く使う人だった。
だから賊が入って盗むような物は置いていない。
高価といえば、材料に使う鉱石くらいだろう。
それも、鍵のかかった地下に保管してあるので、
大丈夫だろうと思っていた。
が、それまでも無くなっていたのだった。
まるで、知っている人間の仕業のようだった。
「そういえば、この前メノウの協力者が居たと
言っていたな…少し調べてみるか…」
タヒソは青の塔を後にしたのだった。
それからは、いくら師匠の痕跡を探しても、全く
見つけられなかった。
誰かが生活していたという痕跡はあるが、それは
師匠ではない別の誰かだった。
騎士団長が言うには、まだ幼い青年が居たと言っ
ていたそうだ。
メノウと一緒に牢に入れたのだが、二人とも居
なくなっていたそうだ。
それも、看守には幻惑効果のあるポーションを
嗅がせたのがわかった。
幻惑ポーションは、高価で普通はなかなか手に
入らない。
自作できれば簡単なのだが、作る過程が面倒な
のだ。
そして囚人につける魔法印も簡単に解いて出て
行ったのだ。
まるで師匠が手を貸したとしか思えないほど
手際がよかったのだ。
タヒソは師匠が手を貸しているのではないか?
という疑問を飲み込むと騎士の捜索報告を聞く事
にしたのだった。
現状、タヒソ準男爵の手で解決しなければならな
い問題となったのだった。
一つ、いい事といえば、青の塔の最下層にある
師匠の部屋の机の中に一つのポーションが入っ
ていた事だった。
解毒薬ではないが、エリクサーと呼ばれる軌跡
を起こす完全回復薬と言われるポーションだった。
「まさか……これを完成させていたのか……」
奇跡のポーションと呼ばれる『エリクサー』は
死に際の人間をも、生き返らせられると言うほど
凄い効能が期待できるポーションなのだ。
昔から、何度も実験を繰り返し、いつかはそんな
ハイポーションを超えるポーションを作りたいと
言っていたのだ。
それが、まさかすでに出来ていたとは思わなかっ
た。
だが、なぜ?
全てのモノが持っていかれたというのに…。
コレだけが、残されていたのだろう?
タヒソの師匠であったメルバルト・ファオニンと
いう男は、自分の手柄を人に渡すような愚行は絶
対にしない。
過去の栄光があるせいか、まだまだ現役だと言う
ような老人だったのだ。
毒の解毒には、エリクサーが通じるか疑問だった。
もし、一個しかないエリクサーを使って、解毒で
きなかったら?
そう思うと、タヒソはエリクサーを握りしめると
自らの手で解毒薬を作るのだと決意したのだった。




