17話 逃亡 (5)
急遽行き先を変えたせいか、今は何事もなく平和な旅
だった。
丸一日歩いた先の小さな村に着くと、そこで村々へと
続く乗り合い馬車へと乗った。
平原をひたすら真っ直ぐに進むと、小さいながらも町
へと出る。
そこにはギルドもあり、少しなら冒険者としての
依頼も受けられるようだった。
「おい、冒険者なのになんでEランクなんだ?低くな
いか?」
「ごちゃごちゃ煩いですね?自分でもギルドに登録
したらいいでしょ?どーせ、身分証もないんです
から」
「身分証位あるっつーのっ!」
「貴族のはダメですよ?そんなの出したらすぐに居
場所がバレるでしょ?捕まりたいんですか?」
「それは……登録する……」
ハルカより一才年上だと言うのに、どうして行動が
あさはかすぎるのだろう。
少し考えれば分かるだろう事も、全く気にもしてい
ない様子だった。
ギルドに登録すると簡単な採取依頼を受けたのだった。
「そういえば聞いたか?イーサ様の容体が回復なさった
そうだぞ?」
「あぁ、聞いた聞いた。弟に毒殺されそうになったって
やつだろ?全く、どうしてそんな事をしたんだかな〜」
「だよな〜、見つけ次第その場で死刑だってよ?」
「公爵なのにか?」
「あぁ、マーロ公爵がそう言ったそうだぞ」
「そうだよな〜、後継者が殺される所だったんだから
な〜、第一婦人も部屋に軟禁されてるって噂だぞ」
「それなら聞いたぞ。なんでも精神が病んで寝たきり
になったんだってな〜」
冒険者の話が耳に入る。
もちろん、メノウの耳にも入っている事だろう。
「何を言っても無駄ですよ?ここで騒ぐだけ無駄です」
「………」
今日のメノウは静かだった。
いつもなら口煩いのだが、ただ、ショックだったのか
何も話さなかった。
宿屋は二部屋取りたかったが、金のないメノウには
払える物がなかったのだった。
一応、メノウも考えたのだろうが、彼の持ってきて
いたものは母親の宝石や装飾品だったのだ。
『これを換金すればいいだろ?』
「貴方は本当にバカですか!こんなもの売ったらす
ぐに足がつくでしょう!どうしてもっと量産品や
安物を持ってこなかったんですか?」
『高いものなら数個で価値があるだろ?』
「換金できないものはただのゴミです!」
メノウが換金所に行く前に聞いておいてよかったと
改めて思う。
国中探しても、滅多に出回らない宝石など誰が換金
してくれるだろう。
換金しようものならすぐに兵士が走ってくるだろう。
ハルカは宝石を預かると、金と宝石を分解した。
金は別のものに加工して売りに出した。
金細工の食器なら、平民でも持っている事があるから
だった。
貴族なら、全部が銀食器や金食器だが、平民はお守り
のような役目で一対のみ持っている事があった。
これは赤子が生まれた時に、買う習慣があるせいだと
聞いた事があったのだ。
こう言う知識は全部師匠が教えてくれた事だった。
城では、きっと師匠も消えた事になっている事だろ
う。
一年の間、身分を偽っていたので、きっと今頃混乱
しているだろう。
「明日の朝にでもここを出ますから」
「お……おぉ…………」
「お兄さんが生きててよかったですね」
「そう………だな」
根は悪い人ではないのだろう。
それでも、この人をはめたのは一体誰なのだろう。
国の重役で後継者を二人も失う所だったのだ。
こんな事をして得するのは一体……。
父親のマーロ公爵は優秀な方に後を継いで欲しいは
ずなのだ。
だったら、こんな事はしないだろう。
メノウも、こんなバカでは毒殺など考えないだろう。
しかも自分のメイドを使って毒を盛るなど絶対に有
り得ない暴挙だった。
大臣達も同じだった。
彼らからしたら、優秀な後継者が亡くなるのは国の
損失なのだ。
だったら……それ以外に得をするのは……。
「まさか、アンバー様?そんな事は……今年で10才
になると聞いていたけど……」
ハルカは自分の考えを打ち消すと、明日の支度をし
たのだった。
薬草採取も早くに切り上げると、自分用の薬草も
取っておく。
新鮮なうちに粉にして保存しておく。
瑞々しいのは、取った直後だけですぐに乾燥が
始まる。
薬草の効果が一番いいのも、摘んで丸一日だと
いう。
薬草も鮮度が大事なのだ。
摘みたての薬草をギルドに出すと、すぐに精査に
入った。
「こちらが、報酬となります。実にいい鮮度と状
態です。これなら、品質最高級品として出せま
すよー」
ギルド職員の女性は嬉しそうに銀貨を渡してきた
のだった。
「どうも、では…」
「またよろしくお願いします」
「はい、機会があれば」
ハルカは会釈をすると、ギルドをでた。
同じ依頼を受けたメノウもいくつかの薬草を出したが、
金額はハルカの半分にもならなかった。
「なんで同じ量を提出したのに、金額が違うんだ?」
「品質ですよ?メノウさんは薬草を無理やり引きちぎ
っていたでしょう?」
「そりゃ、当たり前だろ?」
「あの依頼は、薬草の鮮度と状態が大事なんです。だ
からもっと丁寧に斜めにゆっくり抜いて保存すると、
一番いい状態で提出できるんです」
ハルカの取ったものは、どれも摘みたてのような鮮度
だった。
それに比べ、メノウのは葉っぱはしおれ、茎も色が変
わっていた。
「そんな細かい事気にしてやれっかよ?」
「依頼人にはそれが死活問題なんです。錬金術でも鮮
度が悪ければ、劣化品ができてしまいます。もし、
これが病人を治す薬にでも使われるのなら、どうで
すか?品質の悪いものを、従来と同じ値段で買いた
いですか?」
「それは………嫌だな……」
「そう言う事ですよ」
買わされる方の身にもなって欲しいものだった。
ハルカが錬金術師だからこそ、そう思うのかもしれ
ない。
頼んでおいたものと違えば、出来上がるものも変わ
ってしまう。
もし、急を要する依頼だったら、文句など言えない
のだ。
だからいつでも、全力でいいものを届けたかった
のだった。




