13話 逃亡
この印が付いている限り牢から出ると力が抜けて動
けなくなるという症状を引き起こすものだったはず
だ。
「面倒なものを……」
「なぁ、ハルカ!おい、俺はどうしたらいい?」
「知りませんよ。ご自分がした事なら、ご自分で責
任を取ってください。僕は旅に出る予定なんです」
「そうは言うが、ハルカだって捕まってんじゃん。
俺と一緒だろ?」
「………」
騒がしく話をしていると、この牢にはまだ住人がい
るようだった。
「騒がしいですね……あら、メノウ様。こんな所で
お会いできるなんて、なんて偶然ですの」
「メイドか。お前も捕まったのか?」
「はい、イーサ様のお茶に毒を入れたら捕まってし
まいましたわ」
「イーサのお茶に?ってなんでお前がそんな事を…」
一瞬、メノウは理解出来なかった。
どうして自分の専属メイドがそのような事をするのか?
「あら?知らなかったんですか?頼まれたんですよ〜
メノウ様に……イーサ様を殺してくれって…」
メイドは堂々と言い放ったのだった。
「何言ってんだよっ!俺がいつそんな事言ったんだ!」
「いつも思っていたでしょ?だから、私が手を下した
のですよ?」
全く話にならなかった。
メイドは、常にメノウの指示なのだと言う。
そう言う割には、彼女はメノウを慕っているようには
見えない。
まるで、誰かの指示でメノウをはめているようにしか
見えなかった。
「そうやって、イーサさんと、メノウさんの両名を消
してしまうのが本当の指示ですか?」
一瞬、メイドの声が止まった。
メノウを揶揄うように笑っていたのも、一瞬で真顔に
なったからだ。
ハルカは冷静に判断し、言葉を選ぶ。
「メノウさんは、誰からも尊敬されてはいなさそうな
ので……メイドのお姉さんもそうなんでしょ?確か
イーサさんはこの国の第一子にて、後継者候補2位
だったはずです。その人をわざわざ自分が有利であ
るメノウさんが殺す必要がありますかね?」
メイドも牢に入れられているわりには、怯える様子
はない。
もしかしたら、牢から出る算段があるのではないだ
ろうか。
たかがメイドが暗殺など、リスクの高い事を自分の
意思でやるとは思えないからだ。
♦︎♦︎♦︎
さっきまで誰も居なかった所にいきなり黒装束の男
が現れるとメイドの牢の前で立ち止まった。
「おい、うまくいったか?」
「私のおかげで順調だったでしょ?早くここから出
してよ?ちゃんと報酬はくれるんでしょうね?」
「あぁ、勿論。ご主人様はいたくお喜びだったよ」
そう言うと、小さな小瓶を床に置いた。
「何よ?これ」
「それを飲むと一時的に仮死状態になる。死体と勘
違いして外へと運ばれるはずだ。」
「なるほどね。死んだことにして出るってわけね」
「あぁ。明日には外に出られるだろう。飲んでおけ」
「分かったわ」
何かの取引があったのだろう。
だが、そこまではこの会話だけでは分からなかった。
「待って、僕も逃してくれない?」
「お前は誰だ?」
「そこにいるメノウって人のせいで巻き込まれただ
けの一般市民だよ」
「そうか、それは災難だったな……口を開けろ。す
ぐに楽になるぞ」
「ちょっ………僕は普通に外に出たいだけで……」
男は牢の隙間から手を入れるとハルカの腕を掴み、
思いっきり引き寄せた。
有無も言わさず錠剤を手にすると口の中へと突っ込
んだのだった。
喉の奥まで指で押されると否応なしに飲み込まざる
得なくなった。
「んんっ……んっ………」
必死に逃れようとしたが、遅かった。
ゴックンと飲み込んでしまったものはもう吐き出せ
ない。
もし、毒だったらと思うと、ゾッとする。
しかし、毒ではなかった。
なぜなら、その薬はすぐに効果が出始めたからだ。
身体中が異様に熱を持ち始めたので、すぐに分かっ
た。
「これは……まさか……」
「今から拷問だろ?なら、いっそ拷問官に腰振って
甘えてみろよ?今日だけは楽しむだけで済むぜ?」
「下衆が……」
ハルカは声をかけた事を後悔した。
だが、目的は達成したことに少し安堵した。
彼はハルカの意図にきっと気づいていないだろう。
ハルカは自分の身体を抱きしめるようにして、身を
震わせたのだった。




