10話 予期せぬ来客
今日は予期せぬ客が多いらしい。
メノウに何度も引き止められながらそれを振り払
うように歩き出すと、今度は遠くから何頭かの馬
を走らせてこちらに駆けてくる一団が見えた。
「今日は、たくさん引き連れて来たんですね…」
呆れたように言うハルカに、メノウはすぐに否定
してきた。
「はぁ?俺じゃねーし……それに俺は一人できた
んだから……」
鎧を着た騎士は塔の前まで来ると、メノウとハルカ
を見比べてから、剣を構えた。
「おい、お前らっ!俺に剣を向けるとはどう言う事
だ!」
メノウが叫ぶと、後ろからあきらかに偉そうな人が
前へと出て来た。
「アウグスト・メノウ。並びに協力者だな?今から
城に連行する。おとなしく観念する事だ!もし、
抵抗するようなら……斬り捨ててもいいと言われ
ている」
「なっ………」
「ちょっと待って下さい。僕はこの人とは関係ない
ですっ!」
驚くメノウに、ハルカはすぐに否定した。
最近会ったばかりの人と、協力関係とかありえない
からだ。
一体、何の協力関係だというのだろう。
「黙れ!斬られたいのか?」
一人ならまだ逃げれるかもしれないが、この人数を
相手に逃げるのは無理と判断したのだった。
ハルカはメノウと共におとなしく拘束されると、鞄
も没収されてしまった。
♦︎♦︎♦︎
毎日のように、メノウが馬に跨りどこかへと出掛け
て行くのを窓越しに眺めていた。
「また懲りもせず、あの偏屈な錬金術師の所へ行く
つもりなんだな……」
「イーサ様、何度行っても無駄です。あの人は誰か
の為に動くような人ではありませんから。そもそ
もあの性格のせいで後継者も出来ず一人でいるの
ですから」
「そう……だな」
イーサは窓から視線を戻すと部屋の中央で広げられ
た書類に目を通した。
「もうすぐ、ファイルマン公国のロザリア嬢が来る
ので忙しくなりますね」
「あぁ、そうだな……継承権を持つどちらかと婚約
する為に来るらしい。勿論、彼女が弟のメノウを
選ぶ事はないが……それでも、油断はできない」
メノウの昔の態度が悪かったせいで、ロザリア嬢
はメノウの事を嫌っていた。
その為、印象をよくしていたイーサが婚約相手に
なるだろうと噂されていたのだった。
国の繋がりを強固なものにする為に、政略結婚は
よくある事だった。
「あと、一年。そのうちに国中に知らしめてやろう。
我らの技術の高さを。そして……この国に無くて
はならないという存在感を」
「勿論でございます」
イーサの横でただ、頷く男性。
彼は赤の錬金塔の主、タヒソ・エクドールだった。
腕は、メルバルト・ファオニンよりも幾分か劣るが
元々は、青の錬金塔の主、メルバルト・ファオニン
のかつての弟子だったのだ。
圧倒的な存在感に、知識の量。
嫌味ったらしい説教が嫌で、弟子をやめた。
誰よりも偉大な錬金術師の元で学んだせいか、彼も
また国随一の錬金術師と呼ばれるようになった。
「今日はこの後父に呼ばれていてな……また後で来
てもらってもいいか?」
「はい、勿論でございます。他にも大臣達も呼んで
おきましょうか?」
「あぁ、そうだな……頼む」
「かしこまりました」
イーサは部屋を出ると、そのまま父の執務室へと向
かった。
昼が近いせいか、父との話は食事の後でとなった。
食事は城のシェフが作ったものが出される。
いつも豪華で、平民達が見る事もないような豪勢な
料理が並ぶのだった。
「して、イーサ。順調か?」
「はい、父様。一年と経たぬうちに、成果を出して
ご覧に入れましょう」
「それは、心強いな……期待して待つとしよう」
「今日はどう言ったお話ですか?」
「それなのだがな……あいつは遅いな……」
「弟のメノウでしたら、馬で遠駆けに行きましたが」
「まったく………あいつは…」
食事をしながらメノウが来ない事に苛立ちを募らせ
ていた。
勿論、メノウは今日の事を全く知らない。
メノウ付きのメイドと執事は、イーサと親しくして
いる者だからだ。
父からの伝言は全てイーサを通してからでしか届か
ないようにしているからだった。
「弟も困りましたね……父様の招待を無視するとは」
「まぁいい。来ない者はそれも構わん」
やはり、近々くる隣国の姫の話だった。ファルマン
公国のロザリア嬢との婚約の話は、順調にイーサで
決まりそうだった。
つい口元が緩みそうになるのを堪えると、話の続き
を聞く。
「ロザリア嬢も、もう16歳になると言うからな。こ
れを機に婚約と継承の儀を行おうと思ってな」
「まだ、猶予は三年と言っておりませんでしたか?」
「そう思っていたのだが……もう、メノウには無理
であろう。やはり、イーサの優秀な采配にこの国
を託そうと思ってな……。だが、これはまだ決ま
ったわけではないぞ?三年後に正式に継承の儀を
執り行う。それまでに民衆を掌握しなさい」
「はい、父様」
イーサが部屋に戻ると、大臣達と先ほどまで会って
いたタヒソ・エクドール準男爵が待っていたのだった。
「いきなり呼んで悪かったな……此度は少し相談があ
って、諸君達に来てもらった。今、父様から背式に
ファルマン公国のロザリア嬢との婚約の話と、三年
後に行われる継承の儀の話を聞いてきた。勿論、皆
には、メノウと私のどちらに付くかを決めかねてい
る事だろう。だが、これから私がやる事を聞いてか
ら判断して欲しい」
大臣達の中には、メノウを推す者もいる。
能のある者を推す人もいれば、能の無い人を自分の
傀儡にして思うがままに政治を行いたい人もいる。
その為、どちらに着く方がメリットが大きいかをし
っかり示す必要があったのだった。




