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女神の贈り物と好色騎士  作者: ヴィルヘルミナ
本編

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第二十九話 土の精霊はお掃除好きなのです。

「このカボチャの命が惜しければ、大人しく縛られるのよ!」

『くっ。卑怯な……』

 私は普通のカボチャを片腕に抱えて、カボチャ姿の精霊に迫っていた。


「……トーコ、何してるんだ?」

 アイスクリームを食べていたエーベルハルトが半眼で問いかけてきた。

 今日は朝から雨。エーベルハルトは、雨の日は外出しないらしい。朝ご飯が足りなかったらしくて、厨房で牛乳を飲みながらアイスクリームとドーナツを食べている。徐々に痛々しい程の細さからは脱しているけれど、まだ細い。


「ああ、ちょっと、人質ごっこ?」

 にやりと笑って、紐を示す。端切れを細く裂いて編んで作った紐の強度を試そうと思っているだけ。夜にいたずらをしようとするジークの手を縛っておきたい。


「……女神はこんな女がお気に入りなのか……」

 エーベルハルトが遠い目をして呟いた。


『はっ。しまった! ついつい乗ってしまった!』

 ごろごろと後悔しながら転がる緑のカボチャ、土の精霊ドゥレイクは、からかうとノリがいい。


 吊るされている間にいろいろと諦めたのか『わしはこの建物と一心同体!』と言って、時間を見つけてはぞうきんを(まと)って転がりながら掃除をしている。隅っこが掃除できないと叫ぶから、棒の先に布を巻きつけた物を渡すと、嬉々として隅を掃除している。


「手がないのに、どうやってぞうきんを持ってるの?」

『ふ。それは精霊の神秘というやつだ! それより、曇りになったら二階の窓を掃除せい。わしでは届かん』

「はいはーい」


 ドゥレイクがうるさいので、皆で屋根裏部屋の掃除も行った。見違える程綺麗になった部屋は、解体されていたベッドも組み立てられて、いつでも泊まれる状態へと整った。


「ジークと喧嘩したら、ここで泊まろうかしら」

「喧嘩することあるの?」

 掃除道具を纏めていたサリアが首を傾げた。

「全然。言い争いにもならないわ」


(ご都合主義の自分の夢ってわかってるけど……寂しいというか……物足りないっていうか……)

 ジークは自分のことより私のことを優先しすぎる。ジークの意見も尊重したいのに、何でもかんでも私の言い分を聞いてくれる。それが理由でイラっとすることがあっても情けない顔を見るとどうでも良くなって許してしまう。


      ◆


 ジークは私の前ではへなちょこへたれだけれど、職場では全く違う顔なのは知っている。王城内へ行く用事のある時は、こっそり訓練を見学させてもらったりしている。


「まだ結婚はしないのかね? ジークも随分頑張っているが」

 物陰から騎士の剣術訓練を覗いている私に、銀髪に水色の瞳の団長が苦笑した。


「家を買ったら正式に結婚しようと話をしています」

「しっかりしたお嬢さんだ」

 私が答えると団長はさらに苦笑した。本当は子供ができた時にも、という話はしていても、全然その兆候はないし、私が全く経験したことのない妊娠がこの夢の中で出来るとは思えない。


 雨上がりのぬかるみの中、袖なしの訓練着を着て重そうな剣を片手で扱うジークは凛々しくてカッコいい。他の騎士達より格段に技術が上だと素人の私でもわかる。


「あいつの家は、代々騎士の家系だ」

「聞いています。始祖の話も」


「おや。話したのか。……ずっと自分の血を嫌がっていたんだ。人殺しの血が流れていると言っていて、二年前の戦争の後からはさらに嫌悪感を持っていた」

「始祖は昔々の話でしょう? ジーク本人とは関係ないと思います。私は、国と国民を護る為に戦う騎士という職業を尊敬しています」


「平和な時にその言葉を言える者は少ない。ジークは良い理解者を嫁にしたな」

「あら。まだ嫁じゃありませんよ?」

 首を傾げてにっこりと笑うと、団長がにやりと笑った。


      ◆


 ある日の午後、洗濯場から仕上がった洗濯物を受け取って寮に戻っていた。

「似たような服ばっかりなのに、よく間違わないわよねー。名前とか一切ないじゃない?」

 サリアが肩に掛けた鞄を掛け直した。

 肩掛け鞄は私の自作。洗濯物を入れる袋が複数はいるように作っている。この世界にはミシンなんて便利な物はないから全て手縫い。


「それはプロだからでしょ」

 私も鞄を掛け直す。冬が近づいているから服も重くなる。早く帰って、上着やロングコートを人台(トルソー)に掛けないとしわになるとは思いつつ、少しだけ遠回りして花が咲く庭園を歩くのが小さな楽しみ。


「ちょ。トーコ! こっち来て!」

 サリアが私の腕を掴んで、茂みの中へと誘導した。何故かしゃがむようにと指示される。


 庭園の奥から歩いてきたのは黒いフード付きローブを着たフォルカーとクリーム色の品の良いドレス姿の女性だった。淡いピンク色の髪はハーフアップにされていて、少し垂れた大きな青い瞳が印象的。


 二人の歩みは遅い。フォルカーが女性の歩調に合わせているのだろう。女性を気遣う姿が意外過ぎてガン見してしまう。


「……あ、あの……私……あと半年で二十四歳になります。……父が……このままでは、他の方と話を進めることになると……」

 遠慮がちに俯きながら、女性がフォルカーに向かって話している。


「貴女の好きにすればいい」

「え?」

 フォルカーの言葉に、女性が目を瞠って立ち止まった。


「それが貴女の望みなら、私に異存はない。話がそれだけなら、失礼する」

 そう告げたフォルカーは静かに立ち去って、女性はその場に立ち尽くしていた。


「見た?」

「見た見た」


「トーコ、わっるい顔してるわよー」

「何よ。サリアだって笑顔が黒いわ」


「とりあえず、確保よね」

「そうね」

 そんな会話をこそこそと交わした私たちは、茂みから出て行った。完全に俯いたままの女性は涙を零している。


「どうなさったの?」

「……いえ。大丈夫ですわ」

 問いかければ、女性は手巾で涙を拭いてしっかりと返事をして微笑む。


「フォルカー様とお知り合いですか?」

 サリアがそう尋ねると女性がびくりと体を震わせて、また涙を零し始めた。


「落ち着くまで、お茶はいかがです?」

「美味しいお菓子もありますよ! ほらほら!」

 明るい声を上げたサリアが女性の背中を押す。恐らくは貴族なのに、お構いなし。


「あ、あの……」

「ご遠慮なさらず!」

 あの根暗のフォルカーが気遣う女性。ただそれだけで興味津々。

 サリアと一緒に黒い笑顔を隠して、私は女性の手を引いた。

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