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女神の贈り物と好色騎士  作者: ヴィルヘルミナ


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第二十四話 カップケーキは魔獣ホイホイなのです。

「はー」

 サリアがミルクティを飲みながら、また溜息をついた。

「どうしたの? もう十回以上は溜息ついてるわよ」


 紅茶に似たお茶が見つかったとサリアが納品にやってきたので、また淹れる方法を実演した。詳しくないのでよくわからないけれど、ほのかに花のような匂いがする茶葉。私はストレートで、サリアはいろいろ試してミルクティに落ち着いた。


「カトラリーも珈琲も、凄い勢いで売れてるのよ。人手が足りないからって、親が若い男を一人雇ったんだけど……悔しいけどびっくりするくらい仕事が早くて有能なのよ。紅茶を見つけたのもそいつ。何か、家の手伝いだしって適当に働いてる自分が情けなくなってきちゃって」


「カトラリーも珈琲もサリアがご両親に勧めたんでしょ? 売り上げにしっかり貢献してるじゃない」

「全部トーコから仕入れた情報からじゃない……私の成果じゃないわよ……それに……どうも親はそいつと私を結婚させようとしてるみたいで、やたらと二人きりにするのよ」


「どんな人なの?」

「年は二十二歳。背は私より少し高いくらいで、顔は……悪くないわね。馬鹿みたいに明るいわ」


「よさげじゃない? 検討したら?」

「あの子犬みたいな目が可愛らしすぎて、弟にしか見えないのよ!」

 サリアがテーブルを叩いて絶叫した。


「……向こうも私のこと姉みたいだって言ってるし、進展しようがないわ。それなのにわざとらしく二人きりにされるのよ!」

「そんなの断りなさいよー」

 がくがくと肩を掴まれて揺さぶられるので、適当に答えてみる。


「倉庫で商品の在庫確認してる時に外から鍵かけられたり、別々の用件で出かけたら実は一緒の場所でしたとか、仕事が関係するから断りようがないのよ!」

「あ、それはヤバいわ。外で仕事したら?」

 これは本格的にくっつけようとしてると見た。そのうち、薬とか盛られそう。


「そうよね……やっぱりそう思うわよね……そろそろ帰るわ……」

 ミルクティを飲み干したサリアがゆらりと立ち上がった。


「あ、カップケーキ作ったから、持って帰って」

「ありがと。何か毎回、悪いわね」

 いつも元気なサリアが力なく答えるので、ちょっと心配になる。


 扉を開けたまま、とぼとぼと一人歩いて行くサリアを見送っていると、凄い勢いでサタルーシュが廊下を駆けてきた。

「サリア来てたって?」

 シャツのボタンがいくつか止まってないのは寝ていたのかもしれない。サタルーシュはまだ完全に昼勤務ではなくて、昨日も深夜からの勤務だった筈。


「今出た所。追いかければ間に合うわよ」

 にやりと笑って、サリアの背中を指さすとサタルーシュが走って行った。


 遠くて声は聞こえないけれど、何か言い争った後、サリアがサタルーシュのシャツのボタンを留めて、微妙な距離で並んで歩いて行った。


「ふむふむ。イイ感じじゃない」

 にやにやが止まらない。サリアは神力持ちだし、サタルーシュもかなり稼いでる。お互いが求める条件に合ってるんじゃないかと思う。


 ふわりと風が吹いて、日向で寝た後の猫の匂いがほのかに漂う。

「ん? …………テイラー?」

 疑問に思いながらもつぶやくと、赤い光の糸が丸いクッションのような銀色のミミズクを織り上げていく。小さな羽がぱたぱた動いて、ふわふわと近づいてきた。


「どしたの?」

『…………呼ばれた気がしたが…………呼んでいないのであれば帰ろ……何をするっ!』

「今、呼ぼうと思ってたところよ! もふもふさせて!」

 せっかく来てくれたのだから、逃がさない。がっちりと抱きしめて、ふかふかを楽しむ。羽を押さえ込んでしまえば完全勝利。


『魔獣よ、おぬし、おチビさんの作る菓子が目的だな?』

『い、いや、違う。断じて違うぞ!』

 私の腕の中、ぷるぷると顔を振って否定する姿が可愛い。低音イケボの慌てる声も素敵。


『諦めるが良い。おチビさんの菓子の匂いは、これまで体験したことのない極上の匂いだ』

 厨房から漂うお菓子の匂いは、扉の精霊にまで届いていて、いつの間にか楽しみにされている。何故かはわからなくても、精霊たちは匂いだけを食べて魔力を少しずつ蓄えていた。


「今日はカップケーキがあるから! 是非食べて帰って!」

 逃げられないように、しっかりと抱えたまま厨房へと向かう。


「誰かー、ドア開けてー!」

 両手が塞がっているのでお願いすると、一メートルほどの木の姿をした精霊が開けてくれた。

「ありがとー!」

 厨房の丸椅子の上に、ぽふりとテイラーを乗せると、ちんまりとして可愛い。本来の姿からは想像も出来ない可愛らしさがたまらない。


『…………そ、その、我は、けして菓子が目的では……』

「わかってる、わかってる。異世界人の私を心配して来てくれたのよねー」

 素朴なお菓子でも、楽しみにしてくれているのなら、本当に嬉しい。皿にカップケーキを数個盛って、テイラーの前に置くと、目がキラキラと輝く。


「今日の飲み物どうする?」

『牛乳をもらおうか』


 丸くなった魔獣の食事スタイルは不思議。カップケーキがいくつかに切られて、その一切れがふわふわと魔獣の口元へと運ばれていく。木のカップに入れた牛乳は、テーブルに置かれたままで少しずつ減っていく。


「どう? 甘すぎない?」

『ああ。ちょうど良い甘さだ』

 今日のカップケーキも精霊に匂いを分けると格段においしくなった。


「毎日作ってるから、いつでも来ていいわよ。ご飯も食べる?」

『……我の主食は、山脈に住む魔物だ。我が食べなければあっという間に増えて、人間の村を襲うようになるからな』

「毎日魔物退治してるんだ。すごーい」


『……我は食事をしているだけだが』

「え、でも、そのおかげで村が安全なんでしょ? それって、偉業よ、偉業」

 話を聞くと、テイラーが食べているのはウサギやシカのような姿の魔物らしい。


「魔物って、人間は食べられるの?」

『人間には猛毒だ。体が変質して、魔物の肉しか食べられなくなると聞く』

「うわ、それは困る!」

 一生魔物の肉しか食べられないなんて、想像するだけで怖い。どんな味がするか興味はあっても、絶対に食べるのは無理。


 魔獣と話をしていると、そっと扉が少しだけ開いた。

「誰?」

 木の姿の精霊が、勢いよく扉を開くと、そこにいたのは白いシルクのパジャマに黒いローブを羽織ったフォルカー。その顔は蒼白で真剣な表情。


「何してるの、フォルカー」

「……おい、その、丸いのは何だ?」

「何って、私の友達よ」

「友達? 馬鹿な……この精霊とは違う異質な魔力……」

 どうやら魔獣の魔力を感じ取って、飛び起きてきたらしい。ローブが乱れているし、銀縁眼鏡も微妙にずれている気がする。


『友人だ』

 テイラーがきっぱりと言い切って、カップケーキを頬張る姿は可愛らしい。フォルカーは愕然とした表情で私とテイラーを見比べる。


「フォルカーも、一緒にカップケーキ食べる?」

「……いや、もう一度寝る。夕食まで起こさないでくれ」

 ふらふらと廊下を歩いて行くフォルカーから、これはきっと悪夢だ。という呟きが聞こえてきて、楽しい。

 この夢、もうちょっと見ていられるといいな。

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