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女神の贈り物と好色騎士  作者: ヴィルヘルミナ


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第二十三話 平凡な日常も楽しいものなのです。

「俺も昼の勤務だけにしようかと思うんだよねー」

 昼食のホットドッグを食べながらサタルーシュが言った。この世界のソーセージは塩辛くて、料理の出汁用に入れて煮込んで取り出すといい感じの味になる。ケチャップはなかったけど、ケチャップに良くにたスープを王城の食堂から分けてもらって、煮つめて掛けた。マスタードはスパイスとして使われているカラシ菜の種をすり潰した。


「朝の光が苦手だって言ってなかったか?」

 ジークが聞いた。

「そ、それは……その……俺も稼ごうかなーって思って」

 サタルーシュが目を泳がせる。

「医務室の勤務も朝と夜は給金が違うの?」

「結構違うよー」


 さりげなくサタルーシュの年収を聞くとサリアの希望を余裕で超えていた。今度来たら教えてあげよう。


 午前中は掃除や、あちこちのメンテナンス、午後はお菓子作りと食事の支度で費やされる。

 今日のお菓子はカップケーキとふわふわドーナツ。出来上がった匂いを精霊たちにあげると、味が格段に美味しくなる。精霊たちは料理の匂いには反応しなくて、甘いお菓子の匂いだけを好んでいる。


 匂いに誘われてサタルーシュが厨房に入ってきた。

「フォルカーも夕食食べたいらしいんだけど、いいかな?」

 揚げたてのドーナツを頬張りながら、サタルーシュが言った。


「いいわよー。嫌いな物があるか聞いておいて」

「え? 嫌いな物? 俺には聞いてくれないのー?」

「嫌いな物を聞いたら、もちろん料理に使うに決まってるじゃない。入れて欲しいなら教えて?」

「うわ。異世界人がヒドイ」

 サタルーシュがどん引きするけれど、フォルカーにはそのくらいの仕返しをしても許されると思う。


      ◆


 食堂での夕食にフォルカーが加わった。グスタフがカトラリーの使い方を教えると、これまた腹が立つくらいに優雅に使いこなす。ラベンダー色の少し長めの髪に金色に見える黄色の瞳。細い銀縁眼鏡が似合う怜悧な美形だけれど、とにかく暗い。座っているだけで、その一角が暗く見える。


 グスタフの頭の上には紫の金魚もどき。サタルーシュの左肩には極楽鳥もどき。ジークの頭の上にはオレンジ色のキツネもどきが乗っているのに、フォルカーには誰も寄って行かない。様子を見ながら近寄ろうとする精霊を睨みつけて威嚇している。


 今日のメニューは、ローストビーフもどきをメインに、鮭もどきと野菜のテリーヌ、野菜たっぷりポトフと温野菜のサラダにパン。ローストビーフは見た目が豪華だけれど簡単にできるから楽だ。野菜を沢山食べてもらえるように、肉や卵やチーズを添えている。四人ともかなりの量をぺろりと平らげた。


 フォルカーは水替わりの軽い発泡酒は口にするけれど、ワインやビールは口にしようとしない。珈琲を薦めてみたけど、一口で顔を(しか)めて「苦い」と言ってカップを置いた。結局は牛乳とドーナツをデザートとして食べている。


 グスタフは珈琲が気に入ったらしい。砂糖を三杯、生クリームを少しだけ垂らして飲みながらカップケーキとドーナツを口にする。


 ジークと私とサタルーシュは今日はビール。黒ビールはコクがあって、赤いビールは果実のような爽やかさ。紫のビールはふわりと花のような匂いが広がるすっきりとした味わい。どれもこれも、お酒は本当に美味しい。


 フォルカー以外は、私の料理が美味しいと言ってくれる。夜中の食事はどうしているのかと聞けば、王城内には夜にいつでも食事ができる部屋があるのと、午前二時ごろから午前五時までの王と王子主催の晩さん会が頻繁に行われるらしい。


「夜中に食べると胃もたれしない?」

 たまにならいいけど、毎日午前二時に肉ばっかりの塩辛い食事とか食べられる気がしない。


「幼少から夜に食事が基本ですから、特に何もありませんね」

 グスタフが凶悪顔で少し首を傾げる。頭の上の紫金魚のしっぽがひらりと垂れる。


「そうだな。昔から夜に食事が基本だったな。一般国民は朝昼夜だと聞いても特に何も思わなかった」

 ジークが思い出すように呟いた。そうか。貴族は子供の頃から食事は夜なのか。


「最初は食べられなかったけど、もう四年になるから慣れてきたかなー」

 サタルーシュが笑って言った。サタルーシュの祖国は朝、昼、夜と一日三食が基本らしい。


「……深夜の食事は苦手だ。胃が痛む」

 一人でもそもそとドーナツを食べていたフォルカーが呟いた。おや。こちらの会話を聞いてないのかと思った。


「朝、昼、夜なら食事が用意できるわよ? 昼勤務にすればいいんじゃない?」

「……弟子がいる」

 驚いた顔で私を見て、目を瞬かせたフォルカーがまた視線を逸らせた。グスタフは思案顔で口を開いた。

「そうですね。弟子に聞いてみましょう」


 魔術師見習いの弟子達は、月の半分の十八日、夕食を食べ終わった後から深夜まで、グスタフとフォルカーの授業を受ける。その他の日は、各自で魔術研究や実験を行って年に二回研究発表を行うことになっている。


「もしも昼の授業に変更した場合、弟子の分の食事をお願いすることはできるでしょうか」

 どうやらグスタフは乗り気。弟子のほとんどが一般国民で深夜の食事に慣れていないらしい。


「弟子ってグスタフは八人、フォルカーは五人だっけ? んー。ぎりぎりねー。もう一人雇ってもらえないかしら」

 全員分の食事を一日三度におやつを考えると、精霊に手伝ってもらったとしても厳しいと思う。


「この際だから既婚者でも何でもいいから、家政婦を追加募集するかー」

 サタルーシュが天井を見上げて言った。


「そうよ! 既婚者なら、王も王子も声かけないんでしょ? どうして未婚や伴侶と死別した人ばかり雇ってたの?」

「リカルドの趣味。あいつは正式な伴侶のいない女が好みなんだよー。頑固だから俺のお願いなんて聞いてもらえないしー。既婚者だったら、そこの出窓にでも魔法を掛けておいて出入りしてもらうしかないと思うよー」

 ほう。これは、リカルドの説得を考えなければならないのか。私は思いついた計画ににやりと笑った。


      ◆


 夕食を終えて、皆で片づけるとあっという間に終わった。グスタフもフォルカーも、貴族のくせに何の躊躇なく手伝ってくれる。何故かと聞けば、効率の問題だと返された。二人とも幼い頃から従者が付いていたけれど、自分でやった方が早くて納得できる結果が得られると言い切った。


 どれだけ無能な従者だったのかと不思議に思ったけれど、きっちりと顔が映る程に皿やグラスを磨き上げて満足気な顔をする二人を見て、妙に納得できた。二人とも細かいことが気になる性格なんだろう。めんどくさい奴らだ。


      ◆


 翌日、朝食後にジークを見送ってから、扉の精霊リカルドに話し掛ける。

「リカルド? ね、正式な伴侶がいない女が好みなんですって?」

『そうだ。男はどうでもいいが、毎日触れられるなら、誰かの物になっていない女がいい』

 木目の顔が扉の表面に現れた。生真面目そうなジジイの顔なのに、中身はスケベ親父ってことか。


「じゃあ、私がジークと結婚したら、通してくれなくなるの?」

 にやりと笑って、魔法陣が刻まれた赤い魔法石を指で挟んで示す。石には発動させれば対象物が炎に包まれる魔法が掛かっている。ジークは魔法石に直接魔方陣を刻んでの魔法行使は聞いたことがないと言ったけれど、試してみると十分な結果が得られた。


『…………おチビさん、何をするつもりかな?』

「何をするつもりだと思う?」

 うふふと笑うと、リカルドが平静を装いながらもうろたえているのがわかる。


「ジークもね、簡単な魔法は使えるんだって。でね、その簡単な魔法を刻んでもらったの」

 目を細めて笑うとリカルドの顔が恐怖に歪んだ。リカルドは扉に憑依してから長い時間が経過していて、定着しきっているから動けないと聞いた。


『通す。通すから、焼かないでくれ!』

「その名に誓って。『害がないなら既婚の女も通す』って約束してくれる?」

『誓う! 誓うから!』

 悲鳴のような叫びをあげたリカルドから誓いを受けた。精霊がその名に誓えば、反故にはできなくなる。


『トーコ……強力な魔力も神力もないのに精霊を脅す人間なんて、初めて見たわ……おもしろいわね!』

 私とリカルドのやり取りを口を開けて見ていたラトリーが笑う。


「あら、脅しじゃないわよ、説得したと言ってよ」

 ほほほと笑うと、ラトリーがお腹を抱えて本格的に笑い出した。


      ◆


 特別でも何でもない日常が始まった。小さな発見や、文化の違いは多々あるけれど深刻な問題はない。寮の中で精霊たちと過ごす生活は童話の主人公になったようで楽しい。


 休みの日にはジークと二人で町に出かける。手を繋いで新居に置く家具や生活用品を見て回る。貯金を始めたばかりだから、見るだけなのにとても楽しい。


「ジーク、ベッドはどのくらいにする?」

「俺は今くらいがちょうどいいな」

 ジークが色っぽく囁く。部屋のベッドは二人では狭くて、目が覚めるといつも抱きこまれている。


「もうちょっと広くないと、喧嘩した時に離れて寝れないじゃない」

「ト、トーコ?!」

 色っぽいジークの顔が驚愕の表情に変化して、情けなく眉尻を下げる。こっちの表情の方が好き。


「嘘よ。……狭いといろいろできないでしょ?」

 周りに聞こえないように囁くと、ジークの顔が真っ赤になった。

「そ、そうだな!いろいろ……ごふっ!」

 大声で叫んだジークの脇腹に、私は冷静に肘を入れた。


      ◆


 ジークは騎士だから馬を飼うスペースがある家か、公共で馬を預かる馬屋の近くが都合が良さそう。この世界の馬は、あまり動物臭がしないから住宅街の中でも普通に飼われている。


「町から馬で通勤になるの?」

「そうなるな」

 貴族と魔術師は馬車で、騎士は馬での登城(とじょう)が一般的らしい。

「馬を世話する人を雇うの?」

 人を雇うなら、その分も計算しないと。騎士の給与が異常に高いのは従者や使用人を雇う為。申請すれば何人分かの補助金が出ると聞いた。


「いや、騎士は馬の世話もできるように訓練してるし、日中は城の馬場に預けるから雇う必要はないな。……俺はトーコと二人きりで暮らしたい。休みの日は誰にも邪魔されずに朝から夜までヤ……ごふっ!」

「あ、ごめん。つい」

 ジークの囁きが恥ずかしくなって、つい肘を入れてしまった。涙目でしゃがむジークの頭を撫でる。最近、何かとジークは色っぽく囁いてくる。カッコいいとは思うけれど、私の好みはコレジャナイ。


      ◆


 繰り返す平凡な日常もジークと一緒にいると楽しい。

ともすると、これが夢だと忘れることが多くなる。あまりにも現実感がありすぎて、これが夢だと思いたくない自分がいることに気が付く。


 それでも、これは夢。現実世界には、掃除や家事を手伝ってくれる精霊たちは存在しないし、魔法なんてない。空に浮かぶ赤や緑の月なんていうものもない。


 どれだけ現実感があったとしても、きっと、全ては私の夢。

 時折、きゅっと心が苦しくなる。

 平凡だけど不思議な夢が、もう少し続くといいな。

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