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女神の贈り物と好色騎士  作者: ヴィルヘルミナ


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第十九話 馬鹿の求婚はお断りです。

「ねぇ、色っぽい化粧って教えてくれない? この際、同年代だけじゃなくて、年上も狙うことにしたのよ」

 サリアが重そうに持っていたバスケットの中身は、ほとんど化粧品だった。雑貨店に置いていなかったラメ粉や、固形のアイシャドー、水溶きタイプの白粉等々、素朴だけれど天然の色が綺麗な物ばかりで心が躍る。


「ラメ粉とかあるのねー」

「これは光る貝の粉、これはサリルの花の汁を乾燥させた粉よ」

 花の粉は物凄く綺麗に光るラメだった。肌に乗せても今まで見たことのない発色で、魔女リリアが作る化粧品らしい。どうやらこの世界の魔女は薬と化粧品を作る人たちのよう。


 布に巻かれた天然毛の化粧筆が何本も出てきた。十数本のうち使っているのは五本のみ。後は未使用でもったいない。値段を聞くとびっくりするくらい安いけど、現実で買ったら一本数千円はしそうで怖い。


 顔を洗ってもらって肌を整えてから、日焼け止めを塗る。

 今日は白粉を筆で乗せる。軽く粉を含ませて、軽く軽く叩き込む。

「パフで塗るのとは違うのねー」

「もっと自然な感じになるでしょ? 簡単だし綺麗にカバーできる」

 パフよりも簡単に自然にぼかせるから、粉ファンデを塗るならこの方法が好き。


 きらりと光って白粉が肌になじんだ。本当に凄い高性能。そうか、きっと、こういう化粧品が私の理想なんだ。だから夢にばんばん出てくるのか。


 花の粉のラメを新しい筆で取って、まぶたと頬の一番高い所、鼻筋に軽くハイライト替わりに入れる。目元はベージュとブラウン、ダークブラウンの三色の固形のアイシャドウでお手軽グラデ。アイラインを入れてまつ毛をカール。ちょっと思いついて、ブラウンのアイシャドウを目の下に軽くぼかして垂れ目風。


 口紅はピンクベージュをラインを引いて筆できっちり塗る。口紅はマットタイプで艶がないので側にあったはちみつを少しだけ載せると艶々。


「すごーい。化粧の仕方で変わる物なのねー」

 壁に掛けた鏡を見ながらサリアが驚く。サリアは美人だから、あまり弄らなくてもいいので楽。鏡は物置に放置されていた物を持ってきた。玄関に出る前に身だしなみをチェックするのに都合がいい。


「そーよ。時間を掛ければ別人にもなれるわよ」

「じゃあ、物凄く美人にして!その顔でイイ男引っ掛けるわ!」

 サリアが物凄い勢いで振り向いた。


「化粧で化けて男捕まえても、あとのフォローができないと逃げられるわよ」

「どういうこと?」

 ああそうか。美人のサリアにはわからないだろうなぁ。と、ちょっとうらやましく思ってしまって、またちょっとだけ自己嫌悪。


「化粧取る時って、いつ?」

「夜寝る時でしょ?」


「私の友達に化粧美人が何人かいるんだけどね。すっぴん晒した後、男を捕まえられたのと逃げられたのと結局二種類に分かれるのよ」

「その違いは?」


「捕まえられたのは大抵男の胃袋を握ってたの。寝るより先に餌付けしてたって訳よ。逃げられた方は寝るのが先だったの。化粧美人は簡単に男に脚開いちゃだめってことよ。すっぴん晒さずに結婚できた友達もいたけど、気が緩んだ時に化粧前を見られて結局離婚しちゃったわ」

「え? どうして?」


「化粧で別人レベルになるとしたら、化粧時間は一、二時間はかかるのよ。旦那よりも先に起きて化粧して旦那よりも後で寝る。日中は化粧が崩れないように気を張ってなきゃならない。毎日よ? 耐えられる?」

「それは大変そうだわー。でもさー、結婚までしたのに素顔を見たくらいで離婚するってヒドイ話じゃない?」


「男にしたら『ずっと騙されてたのか!』って思うらしいわよ。朝、目が覚めたら横に知らない女が寝ていて、何が起きたのかわからなかったって言ってたわ」

「あ、成程ねー。騙されてたっていう不信感が先にくるわけね」


「男を捕まえた子たちは、まず胃袋を捕まえて、それから少しずつ化粧を薄くして素顔を見せてたの。いきなりだとショックを受けるだろうから慣れてもらうって言ってて、結局は素顔でもラブラブよ。本当に努力に努力を重ねた成果よ」


「胃袋ね……私、家族に食べてもらうくらいの料理しかできないわ……」

「それでいいのよ。結婚したら毎日ご飯食べるのよ? 毎日、特別なご馳走なんて作ってられないし、食べ続けたら胃を壊すわよ」


 自分でいろいろ言ってて、ちょっと笑えてきた。この夢の中ではジークと婚約してるけど、現実の私はようやく借金を返して、これから婚活でもしようかなって思ってた所。……いやいや。だからこそ、目が覚めるまではこの夢を隅々まで楽しもう。


 瞬間の自己嫌悪やら自嘲やら何やらに打ち勝った時、サリアの後ろに座っていた木の精霊が、さわさわと枝を入り口の方へ向けていることに気が付いた。


「何?」

 見ると入り口の扉が少し開いていて誰かが覗いている。目が合った風の精霊に『開けて』と声無く頼むと扉が全開した。覗いていたのは大男。


「どちら様ですか?」

「……グスタフ・ロットナーです」

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。この度、こちらの魔術師寮の家政婦となりました、燈子です。よろしくお願い致します」

 素早く椅子から立ち上がってお辞儀する。サタルーシュが皆の活動時間は夕方からだから、その時に紹介するって言ってたから気が緩んでた。しっかりしないと。


 グスタフは山のような大男だった。魔術師の筈なのに騎士と言われても遜色ない。はっきり言えばジークよりも遥かに体格がいい。身長は恐らく二m超え。銀色がかった緑の髪にオレンジ色の瞳。顔は基本的に整っているけれど、荒々しく粗野に見える。はっきりいえば凶悪顔で、睨まれたら子供が泣き出すレベル。光沢のある白いシャツに深緑色のロングベスト、プレスされた黒のズボン。きっと全ては特注品。サイズがきちんと合っている。


「そちらの女性は?」

 荒々しく見える顔と体格に反して、グスタフの声は低く物静か。


「失礼致しました。納品に参りました雑貨店の娘、サリアと申します」

 椅子から立ち上がっていたサリアが、優雅で不思議な挨拶をした。カーテシーと足元は似ているけれど少し違う。スカートの裾を摘まんで、持ち上げるのではなくて前後に捻る。そうか、だから女性の服は全てふんわりスカートなのかもしれない。


 グスタフが突然片膝をついてサリアに手を伸ばした。


「サリアさん、僕と結婚を前提にお付き合いして頂けないだろうか」

「お断りします。すでに婚約者がおりますの」

 サリアがにっこり笑って即答した。あれ? グスタフ狙いじゃなかったのかな。グスタフは一瞬落ち込んだ表情を見せたけど、私の方に向き直った。


「では、トーコさん、僕と結婚を前提に……」

「寝言は寝てから言って」

 ついでのように言われたのがムカついたので言葉を遮る。グスタフは完全に落ち込んだ。


「僕の何がいけないんでしょうか……」

 大男は床に手を着いて嘆いている。

(馬鹿だ。馬鹿がここにいる!)

「馬鹿なの? 誰でもいいから付き合いたいなんて、思ってても言わないものよ?」


「誰でもという訳でもないのです。サリアさんが美人なので最初に声を掛けました。トーコさんは可愛いので次に声を掛けました。責任をもって最終的に結婚をするという条件を暗に提示していますが、それでは駄目なのでしょうか」

 グスタフは空気が全く読めない男らしい。目が本気。


「頭おかしいとかいいようがないわね。告白して断られたからって、すぐに隣の女に告白するなんて失礼よ?」

 サリアが猫を被るのをやめた。美人が呆れた声を出すと変な迫力がある。


「……それは……確かに……そうですね。これからは、日を改めることにします」

 グスタフが立ち上がった。完全に立ち直ったように見える。

「ちがーう!」

 私とサリアの声が被った。


 フォルカーにグスタフ、ついでにサタルーシュ。この寮にはまともな魔術師はいないのか。

 そろそろ、この夢、覚めてもいいかな。

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