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女神の贈り物と好色騎士  作者: ヴィルヘルミナ


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第十六話 精霊と楽しくお掃除するのです。

 今日も朝の光が顔を直撃して目が覚めた。

(そうだ。今度の休みに布を買って、カーテンを縫おう)


 ベッドで一緒に眠るジークはしっかりと私を抱きしめていて、なんとなく気分がくすぐったくて笑ってしまう。

(あー、私って、こういうの求めてたのか) 

 昨日、勢い余って告白してしまったのは、恥ずかしいけど後悔は無かった。いつ夢から覚めるかわからないし。自分の気持ちを素直に吐き出して、気分はすっきり。


 起こさないように、抜けだそうと思ったのに、ジークはすぐに起きてしまった。

「ごめん、起こしちゃった」

「謝らないでくれ。それよりも、俺を起こしてくれた方がいい」


「どうして?」

「目が覚めて、トーコがいなかったら、俺はどうしたらいいのかわからなくなる」

 イケボの吐息混じりの囁きで、背筋がぞくぞくする。執着される優越感も相まって、このまま流されてしまいたくなって、理性がぐらぐらしてしまう。


「はい。朝よ。お仕事あるんだから、起きる! 起きる!」

 初日から仕事に遅れるのは夢でも却下。熱くなりかけた頬をかくしながら、私はジークと一緒にベッドから起き上がった。


      ◆


 ジークの深緑色の軍服に似た服は騎士の日常服らしい。黒色は王の近衛の第一騎士団。あの王子の後ろにいた黒服達、騎士だったのか。


 私はエンジのハイネックのワンピースにエプロン。少し高い位置でポニーテールにした髪にリボンを結ぶとジークが何故か感激しながら抱き着いてきた。

「トーコは可愛いな!」 

 頬ずりして頬にキスをしてのループが始まった。

「はい。今朝はここまで」

 しょんぼりという表現がぴったりな表情が、情けなくて素敵。

「朝ご飯食べて、お仕事行きましょ?」

 ジークの頬に軽いキスをして、手を繋いで部屋を出た。


      ◆


 食堂で食事の後、ジークは魔術師寮まで送ってくれた。

「ありがと。お仕事、がんばってね」

 人目を確認して、頬に素早く軽いキスをすると、ジークの目が輝く。

「いってくる!」

 何度も振り返るジークを見送ってから、私は魔術師寮の扉に手を掛けた。鞄から鍵を取り出して、ふと思いついて、声を掛ける。


「リカルド、おはよー!」

『おはよう、おチビさん。挨拶無しでも鍵を持っているなら通れるぞ』

 声を掛けると、扉に老人の顔が現われた。何か驚いているようなあきれたような表情。


「あ、そうなの? 挨拶はしちゃダメ?」

『ふむ。……まぁ、どちらでも構わん。扉を開けてやろう』

「ありがとー!」

 鍵を使う前に、自動で扉が開いた。これは便利かもしれないと心の中で思ったのは秘密。


 真っ先に厨房へたどり着き、仁王立ちしながら周囲を見回す。最優先事項は、食材と食器が届くお昼までに食料貯蔵室と食器棚を片付けること。夢なんだから、ぱちりと指を鳴らせば……なんて試してみたけど都合のいいことは起こらなかった。


 貯蔵室は思ってたよりもホコリが酷い。ホウキで壁を撫でれば、ぼそぼそと音を立てるようにホコリの塊が落ちてくる。布を髪と顔に巻いていておいてよかった。


 貯蔵室の棚と食器棚を布で拭き上げた時、ちょうどお昼になった。

 昼食はジークが迎えに来てくれて、騎士の食堂で一緒に食べた。お昼のメニューはよく煮込まれた……というより煮込み過ぎてすべての形状がぐずぐずで、濃厚とんかつソースそっくりのスープと焼かれた一キロほどの肉の塊にパン。圧倒的に野菜が少ない。この三年間、親戚の農家の手伝いをしてお米と野菜を貰っていた。毎日野菜料理ばかり食べていたから、肉が食べ放題なのは嬉しいと思っていたけれど野菜がないと物足りない。


 昼食後は寮に戻って掃除を再開。

 厨房のホコリは油を含んでいて黒くて重い。ホウキで壁を撫でると、黒く固まってぼたりぼたりと音を立てて落ちる。脚立がないと厳しいなと思った瞬間、玄関のノッカーが音を響かせた。かなり大きな音で聞こえたけれど、廊下に出ると音は小さい。もしかしたら、厨房や管理人室には大きく響く作りなのかもしれない。


「お待たせ致しました」

 口に巻いていた布を外して扉を開くと、立っていたのは大きなバスケットを腕に掛けたサリアだった。淡い青色のワンピースに生成のエプロン。髪はきつい巻き髪ではなくて、ふわりとゆるく後ろで結ばれている。昨日教えたメイクが美人度をさらに上げていた。


「あれ? サリア? どうしたの?」

「ナイフとフォークとスプーンをとりあえず十組持ってきたわ……何、掃除中なの?」

 サリアが目を丸くした。あ、そうか。髪にも布を巻いてたの忘れてた。


「ありがと。何年も使ってない厨房を掃除中なの」

「手伝うわよ?」

「いいわよ。これ、私の仕事だし」

「化粧とご飯の恩をまだ返してないわ。夕方までの時間限定だけど手伝わせて」

 楽し気なサリアに背中を押されるようにして、厨房へと向かった。


「うっわー。ちょ、こんな広い厨房を一人で掃除するなんて何日かかるのよ!」

 厨房へ入った途端サリアが叫んだ。一応、五日計画にしているから無理という程でもない。


『ねぇねぇ、お嬢さん、ちょっとでいいから、私に神力わけてくれない?』

 ふわりと姿を現した火の精霊ラトリーが、サリアの髪を軽く引っ張った。そうだった。掃除に夢中でラトリーに挨拶してなかった。


「ふっわ! 何これ、もしかして精霊? 初めて見た!」

『そーよー。火の精霊なのよー。ラトリーって呼んで!』

「私はサリア。分けるって、どうやって?」

『分けてもいいよって心の中で思うだけで大丈夫よー』

「んー。よくわかんないけど、どーぞ」

 サリアが首を傾げながらもラトリーに告げる。ラトリーはサリアの肩にちょこんと座った。


『凄い! サリアの神力は、弱々だけど極上の味よ! ありがとー』

 少しして飛び上がったラトリーが楽し気にくるりと宙返りした。あー、いいなー、仲良しさんで……とかちらりと思った瞬間、ラトリーが目の前に飛んできて指を突き付けてきた。


『それにしても、トーコ! どうして私たちにお願いしてくれないの?』

「は? お願い?」

『皆、手伝いたくてうずうずしてるのに!』

 ラトリーが指さす方を見ると、柱や鍋の影から精霊たちが顔を出していた。


「でも、私には神力もないしお礼ができないのよ」

 サリアみたいに何かの力を分けることができない。


『そんなのいらないわよ。この建物で、毎日魔力素を貰ってるんだもの。お礼が返せていないのは、私たちの方なの! 精霊は人のお願いがなければ、勝手に手出しできない決まりなの!』

 ラトリーは駄々をこねる子供のように腕と足をばたつかせて抗議してきた。


「トーコ、お願いしたらいいんじゃない?」

「そうね。じゃあ、お願い。まずはこの厨房と貯蔵室を綺麗にしたいわ!」

『はーい!』


 精霊の特性を活かした掃除が始まった。小さな子供や優美な女性の姿をした風の精霊たちが風を起こしてホコリを下に落として集める。油まみれのホコリも強い風で吹き飛ばす。集めたホコリやごみはラトリーや火の精霊が一瞬で焼く。


 大小の木の姿をした木の精霊達は水玉のような水の精霊を掴んで、高く伸びてはあちこちを拭く。水玉のような体に付いた汚れは洗い場で水と一緒に吐き出された。小さくなった水玉は管から出る水を飲んで元のサイズに戻るという繰り返し。魚のような水の精霊は口から水を吐き出して床に水を流していく。


 小さな老人や二足歩行の熊の姿をした土の精霊たちは、鍋を拭いたり銀の食器をピカピカに磨き上げて自分の姿を映してご満悦。


 精霊達の掃除は滑稽で面白い。

 サリアと二人で笑いながら、あちこちを片付けて拭いていると食糧貯蔵室と厨房の掃除が完了した。

「皆、ありがとう! また次もよろしくね!」

『いつでも大丈夫よー』

『まかせとけ!』

『いいってことよ!』

 精霊たちにお礼を言うと、さまざまな言葉を返して姿を消した。


「凄いわねー。精霊の姿って初めて見た!」

 サリアによると、精霊がいるというのは知られていても、普通の一般国民は魔力も神力も弱いので姿を見ることはないらしい。


     ◆


 まだ食器もお茶の葉も何にもないので、銀のコップでサリアと二人で水を飲む。

 生水を飲むのを躊躇していたら、そっと現れた光の精霊が浄化の魔法を掛けてくれて、闇の精霊が水を冷やしてくれた。冷たい水は物凄く柔らかくて美味しい。


「トーコって、有名人なのねー。王城の門番にトーコに納品に来たって言ったら、すぐにこの場所教えてくれたわ。……ね。門番がトーコのこと、呪い持ちって言ってたけど、呪われてるの?」


「ヴァランデールの連環の誓っていう婚約の魔法なのよ。婚約者以外とヤったら男のアレが腐り落ちるっていうから、呪いっぽいじゃない?」

 そう言って、左手のアジサイの模様をサリアに示す。


「ああ、だからジークの手にも同じ模様があったのねー。いいなぁ、婚約。私もとっとと婚約したい」

 美人のサリアがうらやましいという表情を見せるから、一瞬優越感に浸ってしまって自己嫌悪。ダメダメ『妬む気持ちは顔に出る』祖母からの言葉を思い出して優越感を振り払う。


「この花って、この国では何ていう花?」

「レィラスよ。この花の花言葉は、『絶対に離れない』なのよ。本当、うらやましいわー」

 アジサイとは意味が全然違って、ほっとした。


 話している間に食器と食材が届けられたので、手分けして収納してからカトラリーの使い方をサリアに教える。

「なーるほどねー。これは便利だわ。これは絶対売れる! 親に大至急、追加で買い付けてくるように言うわ!」

 塩漬けされた肉をナイフとフォークで切って、サリアが目を輝かせた。


      ◆


 沢山手伝ってもらったし門まで見送ろうと二人で話しながら歩いていると、全身真っ赤な服のラウレンツ王子が黒服を引き連れて歩いているのが目に入った。どうやらこれからお出かけのご様子。


 王子の視線が私とぶつかって顔をしかめられたけれど、横を見て顔を輝かせた。マズイ。美人のサリアは完全にロックオンされたと直感した。


 向かっていた方向を変えて、気障ったらしくこちらに向かって歩いてくるラウレンツ王子の反対側へとサリアの手を引いて走り出す。


「ト、トーコ? 一体何なの?」

「静かに! ラウレンツ王子に処女捧げたい?」

「嫌に決まってるでしょ。女狂いの王子って有名なのよ」

 サリアが心底嫌そうな顔をした。あの王子、一般国民にまで嫌われているのか。

「今の赤い服の人、ラウレンツ王子なのよ。完全にサリアは目を付けられたわ。王族に呼び出しとかされたら拒否はできないでしょ?」

「絶対に嫌! どうしたらいいの!」

 サリアの顔が蒼白になった。足が止まりそうになるサリアをとにかく引っ張る。


 これは非常にマズイ展開。

 ここで夢が覚めても、後々まで後悔しそう。

 どうか逃げ切るまで、この夢、覚めないで欲しい。

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