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女神の贈り物と好色騎士  作者: ヴィルヘルミナ


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第十五話 告白は早すぎました。

 何故かジークの膝の上は継続していて、筋肉の堅さが伝わってくる。近すぎる距離が鼓動を上げていくから、甘くなる空気を消すために言葉を探す。

「ジークはどうしてこの国で騎士を続けてるの?」

「俺は……一応貴族の端くれだ。タウアー家の第三子。家を継ぐことはないが、戦争の褒賞で爵位を貰ってるから、騎士を引退すれば爵位を受けて領地に向かうことになる」

 爵位持ちの騎士。そんな漫画を昔読んだような気もする。やっぱり私の知識がベースになっているのか。


「貴族なのね。あ、もしかして、家名がある人は貴族?」

「家名があるのは貴族か古い血を受け継ぐ一族だな。家名があると個人が特定しやすいから、呪われやすくなる」

「そっかー。名前だけだと、同じ名前がいっぱいいるから、誰が対象なのか呪いも迷うとか、呪いの力が分散しちゃうとか?」


「ああ。だが、名前だけでも、本人の髪や爪、大事にしている物があれば呪いは掛けられる」

「ひえー。気軽に爪切ったりできないわね」

「切った髪や爪は必ず自分で処理するのがこの国の習慣だ」


「…………まさか、あの山の中に爪とか混ざってる?」

 大量に購入した私の服や靴の箱を置くために、部屋の端に追いやった雑多な物が山になっている。木の板を使って、ざーっとブルドーザー方式で物を寄せたから、細かい内容までチェックできていなかった。

「爪は切りながら焼くから残らないぞ」

 ジークの言葉でほっとしつつも、切りながら焼くという言葉が意味不明。


「切りながら焼く?」

「ああ、見せようか」

 そう言って、ジークはどこからともなく短剣を取り出した。その鋭い刃で、親指の爪を器用に削いでいく。削れた爪は床へ落ちる前に、青紫の炎に包まれて、灰も残らない。


「便利ねー。爪切りって無いの?」

「……ある……はずだ……」

 ジークの目が泳いで、私は察した。短剣で削らなくても、きっとこの世界にも爪切りはある。ということは、この部屋の爪切りは、おそらく山の中に埋もれている。


 ふと、ジークの表情が硬くなった。

「……トーコはタウアー家って聞いても驚かないんだな」

「だって知らないもの。異世界人だし。何か有名な家なの?」

 映画か漫画にそんな名前があったかと考えてみても、全く思い出せない。見つめ返すとジークの顔は真剣さを増し、重い口を開いた。

「タウアー家の始祖は一万人殺しの血塗れ騎士、エトムント・タウアーだ」

 何か強そうなご先祖様来た。プレイしたことはないけど、ソシャゲに出てきそうなキャラっぽい。


「あ、そうなんだ。えーっと、貴族なのに、異世界人の私と結婚してもいいの?」

 家名を聞くと驚かれるってことは、相当有名な名門貴族。第三子と言っても、騎士を引退すれば爵位持ちの貴族になるのだから、異世界人を家に入れることに家族の反対はありそう。


「いい。トーコ以外は誰とも結婚しないって思ってた。両親にも宣言してある………………一万人殺しって聞いても平気なのか?」

「始祖ってことは、昔々のご先祖様でしょ? 何年前?」

「この国ができた八百年程前だ」

「八百年? そんな昔の祖先の話なら、全然関係ないでしょ? 何か問題でもあるの?」

「……いや……ないな……」

 ジークが戸惑ったような表情を見せる。きっとこれまで、始祖の話で嫌な思いをしたことがあるのだろう。歴史レベルの昔の人だし、はっきり言ってジークは関係ない。


「……始祖程でもないが、俺も二年前の戦争で騎士や兵を随分殺してる」

 ジークが縋るような目で、絞り出すように告白してきた。

「戦争だから仕方ないわよ。この国を護る為だったんでしょう?」

 そう告げて髪を撫でるとジークが安堵の息を吐いて抱きしめてきた。ジークの体のあちこちに残る傷は、きっとその時の物だろう。見えないけれど心にも傷を負っているのかもしれない。


「一般人は殺してないわよね?」

「それはもちろんだ。俺は戦場でしか剣を振るっていない」


 ジークの腕の中でジークの心臓の音を聞く。腕をジークの背に回して抱き合うと、かなり早かった鼓動が段々と落ち着いていくのがわかる。彼は騎士。おとぎ話の中の騎士のように悪魔や魔王と戦う騎士ではなく、国を護る為に他国の騎士や兵と戦う騎士。


『戦時は英雄と称えられ、平時は人殺しと嫌悪される』昔、戦争に行っていた祖父が酔った時に一度だけそう零したことがある。幼い時だったからよくわからなかったけれど、今は理解できるようになった。


 魔獣ティラーを従えて、戦争で戦ったジークは、きっと表向きは勇猛果敢な騎士。それでいて、人の心は忘れていない。優しさを心の中に持っている。


 私の夢が用意した私だけの騎士は、私の好みに合いすぎていて、戸惑いもある。

「ジーク、私の気持ちを聞いて」

 出会ってからたった数日なのに、という迷いもあっても、夢から覚める前に、好きという言葉は伝えておきたい。


 向き合うと、ジークの緑の瞳に私が映っている。不安に揺れる瞳が、愛しく思えた。

「私はこの国を護った騎士のジークが好きよ。もちろん騎士でなくなっても好きでいられると思う。騎士としての誇りは、いつまでも持っていて欲しい」

 正直に告げて微笑むと、ジークが驚きの表情を見せた。


「トーコ! 俺も好きだ。俺は一生、トーコを騎士として護ると誓う!」

 お約束とも思える言葉でも、ジークの口から発せられると、胸がときめく。強く抱きしめられる感覚が、あまりにも本物過ぎて、これは本当に夢なのかと疑ってしまう。


 早すぎる愛の告白は、夢だから口に出来たこと。

 ……これで、この夢、覚めちゃうのかな。

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