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女神の贈り物と好色騎士  作者: ヴィルヘルミナ


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第十四話 最低最悪の王と王子です。

 昼食後、サリアと別れて買い物に戻った。店先に色とりどりのテントが張られた市場の中、食器専門店に入る。壁に作り付けの棚には、陶器やガラスの食器の見本が並べられていて、頼むと奥から在庫が出てくるらしい。木の食器は店内の棚や床に置かれた籠に溢れんばかりに積まれていた。


「木製の方が安いのねー」

 籠に入っていたお椀を手に取ると、軽くて固い。抹茶茶碗より一回り大きなサイズで両手で持つとちょうどいい。食堂ではスープ類を入れるのに使われていた。

 大きめのお皿も軽い。壁には長さ一メートル程もある楕円形の皿が掛けられている。

「あれ、パーティ用か何か?」

「パーティっていうか、大人数の食事の時に見る皿だねー」

「騎士や兵士の食事でも使うことがあるな」

 ふむふむ。割れにくそうでいいかもしれない。


 一方、素朴な色の陶器は全て厚みがあって重い。食器棚の中で欠けていた食器とは随分と厚みが違う。材料があれば金継ぎマガイのことは出来るけど、かなり大きな欠けばかりだったから、きっと材料費の方が高くなるから修繕して使う案は却下。


「……重いわね……」

 私の呟きを聞いたジークが軽い陶器はないのかと店主に聞くと、店主が棚の奥から輸入品だというお茶のセットを出してきた。


「可愛い!」

 並べられたのはミルクガラスのような半透明の白い陶器。薄くて軽いけれど、ボーンチャイナとは少し違う雰囲気でどことなく可愛らしい。ポットにミルク差し、ゴブレットのような持ち手のないカップと受け皿が五客。お揃いの大小の皿も付いている。


 砂糖壺があるか聞いてみたけれど、砂糖壺というものはないらしい。そもそも、こういったティーセットを使う貴族はお茶に砂糖は入れないと聞いてびっくりした。ミルク差しだと思っていたのは、はちみつ入れだった。


 気に入ったので散々触ってみた後、値段を聞いて目が飛び出た。ぼったくりかと内心疑ったけど、サタルーシュによると二割くらい安いらしい。

「……これはまた、今度」

 名残惜しいけれど諦める。自分のお金じゃないし、税金の無駄遣いはしたくない。


 食器は二十人分買うことになっていた。

「二十人分ってどういうこと? パーティでもするの?」

「あの寮の定員が十二名なんだよねー。ジークとトーコと予備入れて二十人分」

 サタルーシュが小さな革袋の紐を指に掛けて振り回す。


「今、寮にいるのは五人でしょ? 魔術師とか魔女って何人くらいいるの?」

 騎士達は王城ですれ違ったしジークと一緒に挨拶も交わしたけれど、魔術師っぽい人は一人も見なかった。


「この国では子供の頃に能力測定があるんだ。高い魔力量を持つ人間は選抜されて、魔術師か魔女の弟子になって一人前になるまで勉強する。俺は他の国から流れてきたから弟子にはなってないけどねー。……ここだけの話、王と王子があんなのじゃん? 魔術師も魔女も結構潔癖が多いから、ある程度稼いだ後、一つ二つ研究成果を国に納めて他の国に逃げちゃうんだよねー」

 サタルーシュが途中から声を潜める。


「結婚して町とか他の町に家を持ってる魔術師もいるけど、大抵貴族の血筋か、大臣や宰相に恩を感じてる奴か、超めんどくさがりくらいでさ、国全体でも三十名いるかいないかってくらいかなー。魔女は登録してるだけで四十名くらい。町に家や店を持ってるのもいるけど、大抵、あちこちの森にいるよ」

 そうか、サタルーシュは大臣に対する恩だけでここにいるということか。


「そういえば、騎士の宿舎の方は家政婦どうしてるの?」

 今朝出る時に従僕の姿は数人見たけれど、女性の姿は見なかった。


「騎士は基本的に自分で身のまわりのことができるように訓練しているから問題ない。食事は王城内の食堂で完全に毒見された物が出されるし、洗濯は王城の洗濯室に頼む。掃除も基本的に各自でやることになってるが……」

 ジークが言葉を濁して目を泳がせた。確かにジークの部屋は惨状に近い。昨日は届いた荷物を置く場所を空けるくらいしか片付けられなかった。


「掃除は私がちょっとずつやるから心配しないで。掃除って趣味だったのよ」

 借金を背負ってからの三年、お金のかかる趣味には手を出せなかったから掃除を趣味にしていた。

(……ダメだ。思い出したらむかついてきた)


「独身の騎士が宿舎にいるって、何か理由があるの?」

「二年前に戦争があって、それ以降、生活が荒れる者が多くなった。独身だと誰も止める者がいない。宿舎にいれば、ある程度は相互監視ができて最低限の規律は守られるからな」

 ジークがそう言って、何か嫌な物を思い出したような表情を見せた。

「じゃあ、結構最近からの話なのね」

 ジークの表情が気になるけれど、深く聞くのはまた後にしようと思う。ここは食器店の中。


「もともと希望者は宿舎に入っていた。俺は騎士見習いの頃からずっとあの部屋にいる」

 私が笑いかけるとジークの表情が元に戻って笑顔になった。

「騎士見習い?」

「十二歳から騎士の身の周りの世話をしながら、騎士の生活や戦いを身につけるんだ」

「普通は十八歳で一人前になるんだけど、ジークは十五歳で騎士になったって聞いてるよー。もの凄い優秀な騎士なんだよー」

 ジークの言葉の後、サタルーシュが笑って付け加えた。

「俺は運が良かっただけだ」

 サタルーシュに肩を叩かれて、ジークが苦笑する。


「ジークには騎士見習いの子はついてないの?」

「こいつ女好きって散々言われてたから、希望者いなかったんだよ」

 笑うサタルーシュの言葉に、ジークを睨みつけるとジークの眉尻が下がる。


「……トーコ……俺は……」

「はいはい。言い訳は後でじっくり聞かせてもらうわ? 覚悟しておいてね?」

 にっこりと笑うとジークがさらに情けない表情を見せる。サタルーシュが声を殺して壁を叩きながら大笑いしているのは気にしない。


 素朴なガラスのコップや食器を注文するとかなりの重量なので、寮に届けてもらうことにした。近くの金物屋や雑貨屋で足りなかった調理器具を注文。どうやらこの幻想世界にはフライパンと泡立て器がないらしい。私、この二つに何か嫌な思い出とかあったかな? と考えるけど、何も思いつかない。夢から排除する程嫌いだったんだろうか。……もしかしたら、そろそろフッ素コーティングが怪しくなってきたフライパンと三年使ってない泡立て器を買い替えなきゃいけないなと思っていたのかもしれない。今度の休みに買い替えよう。


 食材や調味料は最小限を明日の午後届けてもらうことにして、あとは注文を聞きに来てもらうことにした。明日の午前中は食糧庫の掃除にあてると決めた。他にも必要な物を細々買って、食堂で夕食を取ってお酒を飲んでから騎士宿舎へと帰った。


      ◆


「トーコ!」

 部屋のドアを閉めて荷物を置いた途端にジークが抱きしめてきた。

「……ぷはっ……どうしたの?」

 強く抱きしめる腕から少しだけ顔をあげてジークを見上げる。


「俺はトーコが好きだ。トーコは俺のことどう思ってる?」

 ジークが真剣な顔で聞いてきた。

「私もジークが好きよ? どうしてそういうこと言うの?」


「……俺は一日中、二人きりで一緒に居たい」

 ジークが眉尻を下げる。ああ、そうか、不安なのか。今にも泣き出しそうな表情は、とても悲しそうで、とてつもなく愛しく感じる。ジークの方が背が高いから私は完全に抱き込まれているのに、まるで縋られているようで、背筋が歓喜でぞくぞくと震える。


「まずは働かないと生きていけないでしょ? 休みの日には、朝から夜まで一緒に居られるわ。早く家を買って二人で暮らしましょ?」

 夢とはいえ、私が焦り過ぎているという部分があるとは思う。流されたとはいえ、婚約した美形の騎士と蜜月を過ごしたりするのが普通なんだろう。でも、唐突に多額の借金を背負わされた時の恐怖の記憶がどうしても拭えない。働かずに休むなんて怖くて考えられない。働く合間に休みたい。


「すまん。俺がちゃんと貯……」

 ジークの謝罪を指で止めた。過去のことは過去のこと。大事なのは今からのこと。腕を伸ばしてジークの頭を下げさせて、額と額を合わせるとジークの鼓動が早くなったのがわかる。可愛すぎて堪らない。


 唇のキスができそうな至近距離。ジークの顔が赤くなっていく。

「これから、二人で働けばいいでしょ? 明日のお仕事は何時から?」

「トラキルの刻からだ。明日から日中の勤務のみに変更してもらった。日中の方が稼げるからな」


 何時なのかさっぱりわからない。この世界は一年が十ヶ月に分けられていて、一ヶ月は三十六日。一日が三十六刻に分けられている。


 魔法石で動く時計は超がつく貴重品で、ジークの部屋には一つ置かれていた。山積みになっていた服のしたから発掘した時には、ただの綺麗な置物だと思っていた。

 直径十五センチの丸い球形のガラスの中で花が咲き、満開になると違う花のつぼみが現れるの繰り返し。一日で三十六種類の花が咲いては消える。


「え、これ、時計なんだ! トラキルって花の名前なのね」

 一刻は約四十分でトラキルの刻というのは大体朝九時くらい。ジークの勤務時間は朝九時から午後六時前。間に二刻、約八十分の食事休憩がある。


「普通、夜勤の方が稼げるんじゃないの?」

「この国の王族や貴族は夜が普通の時間なんだ」

 何故か私は椅子に座るジークの膝の上に横座り状態で乗せられて説明を聞いている。恥ずかしくても座り心地が悪くても、基本的に力で敵う訳がないからあきらめた。


「ね、王様が吸血鬼とか妖怪とか、そういうオチ?」

「オチが何かはわからないが、魔物のたぐいではないな。普通の欲深い人間だ」

 ジークが苦笑する。


「つまらないわねー。精霊とか魔術師がいるんだから、王様が魔物の方が面白いと思うわ」

「魔物だったら、倒さなければならないだろ?」


「倒した方が国的にはいいんじゃないの? よく人がついてきてるわね」

「宰相や大臣達が必死になって国を保ってる。それがこの国の一つの堤防みたいなものだな。もう一つの堤防は……二年前に戦争して隣の国を吸収したんだ。小さな国だったが、古い呪い付きの財宝があったらしい。それを王と王子達が持っていて、どこに隠してあるのかはわからないし、特殊な呪いが掛かっていて自分たちが死んだら呪いがこの国と国民全員に向かうと言っているから、もう誰も手を出せない」


「最低最悪を通り越して、本当に人なのか疑問だわ」

 国民全員を人質にしてるから、王と王子はやりたい放題なのか。


 王子の甘ったるい顔を思い出して、嫌悪感で体が震える。

「寒いのか?」

 暖かい腕に抱きしめられて、耳元で囁くイケボが心臓に悪い。


……もう少し、このまま夢の中でもいいかな。

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