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女神の贈り物と好色騎士  作者: ヴィルヘルミナ


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第十三話 中世の食卓体験は終わりです。

 サリアと店主の興奮がおさまった後、店主がハーブティーを淹れてくれたので三人でお茶を飲む。

「サリアって美人なのに、いままで結婚話はなかったの?」

 ついつい疑問が口から滑り落ちた。無神経発言過ぎたかと慌てる前に、サリアの瞳がキラリと光る。


「よくぞ聞いてくれたわっ! 私、親同士の約束で、隣に住んでる幼馴染と結婚するってことになってたのよ。子供のころからずーっと言われてたから、すっかり幼馴染が婚約者だと思ってた訳。幼馴染も婚約者扱いしてくれてたから、ますます疑いなく信じてた訳よ」

 突然サリアが身を乗り出すようにして、話し始める。きっと、話を聞いてほしかったのだろう。


「十八歳で成人した幼馴染が海沿いの町の商家で勉強をするってことになって、送り出したんだけど、一年、二年経っても戻ってこない。たまにくる手紙には、近況と待っていてくれっていう言葉だけ。私が二十三歳になって、両方の親もしびれを切らして幼馴染に一度帰ってこいって連絡したら、里帰りってことで帰ってきたんだけど、奥さんと子供と一緒に帰ってきたのよ!」

 ばんっと大きな音を立て、サリアがテーブルを叩いて立ち上がった。


「は? 何それ。酷い男じゃない」

 私が思わず口にした言葉に店主が何度も頷き、サリアがふうと溜息を吐いて椅子に座り込んだ。


「子供は三歳。奥さんは二十七歳。適齢期ぎりぎりだった奥さんに迫られて子供が出来て逃げられなかったって言い訳してたけど、ずーっと私宛の手紙には、待っていてくれって書いてた訳よ。どういうつもりだったのか聞いても、謝るだけ。幼馴染の親は最初絶縁するって言ってたけど、孫が可愛いんでしょうね。時々、旅行に出かけるって言って会いに行ってるみたい」


「周囲の同年代の男は、ほとんど結婚しちゃってるし、お見合いしても二十三歳までずっと婚約者もどきがいたっていうので処女じゃないんじゃないかって疑われるし……まとまった持参金を提示すれば条件良い人紹介してもらえるんじゃないかと思って貯めてるんだけど、家の手伝いだから、なかなか目標金額までは遠いのよねー」


「婚約破棄の慰謝料とかもらえなかったの?」

「そもそも正式に婚約してないもの。ただの親同士の口約束。……本当のこと言うとさあ、幼馴染と結婚できなかったことより、幼馴染の親から微妙に娘扱いされなくなったのが悲しいのよね……表面上は変わらないんだけど、こう、なんていうか、私に対して罪悪感を持ってるというか、気を使ってるというか……」

 サリアがテーブルに突っ伏した。


「サリアが良い人捕まえて幸せになったら、元の関係に戻れるんじゃない?」

 ちょっと無責任かなと思いつつも、正直な感想が口から零れた。

「トーコもそう思う? 私もそう思うのよ!」

 がばりと音をたてて、サリアが顔をあげた。


「焦っても、変な男は捕まえないようにね。幸せにならないと」

 妙に前向きな表情を見せるサリアに一応忠告しておく。私は流されてジークと婚約したけれど、何故かちっとも迷いも後悔も感じない。夢だからなのか、ジーク以外の美形には心がときめかない。


 お茶を飲みながらの話は、化粧品の話題に移った。口紅やアイシャドウの色はリクエストできると聞いて、ベージュピンクとピンクをお願いした所で、ジークとサタルーシュが迎えに来た。


「サタルーシュ、ご飯おごってよ! 約束したでしょ? デザートとお酒の替わりに、サリアにもおごって」

「お、おう」

「トーコ、俺がおご……ごふっ!」

「あ、ごめん」

 また反射的にジークに肘を淹れてしまった。私以外におごるのが許せないというのは秘密。……もしかして私、結構嫉妬深いのかも。


「ちょ。トーコって、ちっちゃいのに暴力的ねー」

 しゃがんで悶絶するジークの頭を撫でていると、サリアがどん引きしていた。

「ちっちゃいっていうけど、百六十センチあるわよ?」

「この国では子供の身長よ?」

 もしかして、それが若く見られる原因なのか。サリアも雑貨屋店主も、百七十を超えていると思う。

「ま、いいや。サタルーシュのおごりで、ご飯食べに行きましょー」


      ◆


 食堂に入って、サリアとサタルーシュはピザもどき、ジークと私はパンとポトフもどきと焼魚を注文した。

「女神の慈悲に感謝致します」

 食事を前に、サリアが胸の前で手を組んで呟いた。

「あ、神力持ちなんだ?」

 サタルーシュがサリアに聞いた。

「そうよ。力が弱くて奇跡は起こせないけどね」


 食事の時の祈りで、魔力持ちか神力持ちなのか判別できるらしい。ジークとサタルーシュは魔力持ちだから、精霊に祈りを捧げる。


「はー。フォークとナイフが欲しいわー」

 パンはともかく、肉とか魚を手で食べるのはストレス溜まる。一人前で六十センチ近くある見たこともない白身魚が、どーんと一匹。味付け無しにしてもらったから、塩辛いポトフに浸して食べている。


「ん? うち、フォークとナイフとスプーンっていうのがあるわよ?」

 サリアがピザもどきを千切りながら言った。


「え? あるの? 何で皆使わないの?」

「うちの国では誰も使ったことのない新商品だもの。先週、うちの親がヴァランデールに流行(はやり)もの買い付けに行ってたんだけど、飛ぶように売れてたって木箱一つ分買ってきたのよ。ちゃんと確認してないけど、五十組か百組は入ってるかな。帰り際に慌ただしく買ったから、きちんとした使用方法聞いてなくて、来月行くときまで寝かしとくかーって言ってたのよ。使い方知ってるなら教えて欲しいわ」


「教える教える!」

 私はサリアに叫んだ。フォークとナイフがあれば中世の食卓体験は終わって、衛生的にも精神的にも格段に改善が望める。


 流石、夢。中々に都合の良い展開になってきた。

 この異世界生活は結構楽しい。

 もうしばらくは、この夢、覚めなくてもいいかな。

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