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女神の贈り物と好色騎士  作者: ヴィルヘルミナ


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第十一話 氷の魔術師は美形でも最弱です。

 七色に煌めく巨大な砂時計は、闇の中で宙に浮いているようにも見える。驚きの声を上げた私に、サタルーシュが喜々として口を開く。

「この寮の空調と魔術研究用の魔力素を生み出す動力源だよ。中身は砕いた魔法石。魔法石は魔力を含んでいるんだ。毎日少しずつ減っていくから、少しずつ追加する」

 大きな砂時計の後ろから細いガラス管のような物が出ていて、廊下の天井の端に張り巡らされている。


「魔法石って、魔法灯の燃料よね」

「そう。焜炉とかにも使ってるよ。いろんな物の燃料として使われてる」

 燃料のイメージから、石炭のような黒い石かと思っていたのに、実物は七色の宝石のように輝いていて、とても綺麗。


「へー。魔力素って何?」

「この世界に満ちる魔力の素のことだよ。火・木・土・水・風・光・闇の七つの種類が確認されてる。魔力が無いと、魔法は使えないんだよねー」


「じゃあ、魔法石の色で魔力の種類が違うの?」

「実は色は関係ないんだよ。赤とか茶色の魔法石でも、水属性っていうこともある。魔法灯とか焜炉とかは内部に魔法陣が組み込まれてて、属性関係なく、魔力だけを抽出して光や熱を発生させる仕組みなんだ」

 魔法石とは、魔力の電池と理解すればいいのだろうか。


「そういえば、神力って何?」

「神力は女神の力。無から有を作り出す奇跡を起こせるんだ」


「奇跡って、何が出来るの?」

「それぞれが持つ力の総量によって奇跡の規模は変わる。花のつぼみを開かせたり、カップの水をお湯にする程度から、怪我や病気を一瞬で治すとか。雨を降らせたり、天変地異を収束させたという話もあるよー」

 魔力も神力もゼロの私には、何の奇跡も起こせないのは寂しい。


 サタルーシュの説明を聞いて、砂時計に近づいてみたくなった。


「あ、厨房はこっち。反対側だよー」

「ちょっとだけ見てくる!」

 浮かれた気持ちで、暗い廊下を早足で歩き出す。目指すは廊下の奥に浮かぶ巨大砂時計。どういう仕組みなのか、砂時計がくるりと回転した。キラキラと魔法石の砂が零れて、七色に輝く砂は素敵に綺麗。


「出て行け!」

 叫びをあげた黒いフードを目深に被った男が、私目掛けて水色に光る球を投げつけてきた。私の目は砂時計に釘付けだったから、廊下の曲がり角に潜む人影には気が付かなかった。

「トーコ!」

 歩いて追いかけてきていたジークの叫びが聞こえた。咄嗟に手で顔を庇うと、何かが軽く当たって落ちる。


「…………あれ?」

 光っていたから魔法か何かで攻撃されるのかと思ったのに、紙屑がぶつかったくらいの衝撃しかなかった。

「は?」

 ジークとサタルーシュの間抜けな声が聞こえた。

 足元には、二つにぱっかりと割れた氷の塊。薄い氷がレタスみたいに何層にもなっていて、直径二十センチくらいの丸い形。みるみる内に縮んで消えた。


「馬鹿なっ?!」

 愕然とした声を出した男が、今度は複雑な図形が描かれた紙片を取り出して、歌うような呪文を唱え始める。


 キレた私がやることは一つ。一気に男との距離を詰めて、お腹に拳を一発。男が前かがみになった所で、手を組み合わせて背中に叩き込む。痴漢撃退方法習っておいて本当に良かった。


 男が悶絶しながら床に転がり、紙片は水色の炎に包まれて一瞬で消え失せた。

「はっ! 馬っ鹿じゃないの? この世界の魔法使いっていうのは、普通の女に負けるのねー」

 ドラマや漫画に出てくるような悪女のように、ほほほと笑いながら見下す。きっと私の夢だから、私が最強なのだろう。


「……お前が、普通の、女の訳、ない、だろう!」

 咳込みながら男が唸る。黒いフード付きローブの下には、光沢のある白いシャツに裾の長いワイン色のロングベスト、ぴっちりとプレスされた折り目がついた黒いズボン。しばらく掃除をしていないであろう廊下に転がっているので、あちこちが汚れてしまっている。


「何? 文句あるの?」

 フードをひっぱって外してみると、これまた美形だった。ラベンダー色の少し長めの髪に金色にも見える黄色の瞳。銀縁の眼鏡。神経質そうな雰囲気が顔からにじみ出ているけれど相当な美形。氷の魔術師とかあだ名がついていそう。ふむ。この夢は美形が多くていいね。


「……ない……」

 床に転がったままでも睨みつけてくるので、急所を蹴る素振りを見せると顔を青くして男が答えた。


「フォルカー、何でいきなりトーコを襲ったんだ? いくらなんでも女に手をあげたらダメだろー」

 口をぽかんと開けて見ていたサタルーシュがようやく男を咎めた。いつの間にか隣にいたジークが私を抱きしめてきたけど、ムカついたので腕に噛みつく。ぎりぎり。


「……予知夢だ。今日、訪れる女は私の運命を変えてしまうという夢を見た」

 座り込んだフォルカーがぼそぼそと呟く。


「は? 私がどうやってあんたの運命変えるのよ?」

「それはわからん」

「寝言は寝て言いなさいよ? よくわからないけど夢に出てきた女を襲ってみましたなんて、どういう理屈なの? この世界の魔術師って自分の欲望にだけ忠実な馬鹿なの?」

 ジークの腕が離れないので、抱き込まれたままフォルカーに悪態をつく。


「黙れ!」

 フォルカーがまた何か光る物を投げてきた。ジークが腕で払うと同時に、水色の光が割れて粉々になった。

「え? ちょ! 凍ってる!」

 ぱきぱきと音をたてて、ジークの腕が厚い氷に覆われていく。反射的に触れたら氷が砕け散って消えた。 

 サタルーシュとフォルカーがぽかんと口を開ける。


「まさか、トーコって……淵源(えんげん)(つかさ)?」

 サタルーシュが目を見開いて呟く。

「何それ?」

「すべての魔法効果を根源にさかのぼって無効化する者のことだ……」

 フォルカーも目を瞠って呆然と呟いた。


「は? サタルーシュの連環の誓いの呪いは掛かったわよ?」

「あ、そっか。じゃあ違うのかな。召喚時に、害を与える魔法を無効化するっていう能力が付与されてるってことかな? なぁ、ジーク、どんな願いを女神にしてたんだ?」

 サタルーシュが首を傾げてジークに問う。


「ああ、それは……ごふっ!」

「馬鹿なの? 私がジークの秘密をしゃべってもいいの?」

 綺麗に決まったひじ打ちに悶絶するジークに微笑む。これは後で徹底的に口止めしないとダメだ。


「……私の氷結魔法が無効化された……何故だ……」

 フォルカーは座り込んで、完全に自分の内に向かって自問している。あー、暗いのは嫌だわー。


 はー。もう、いろいろめんどくさい。

 そろそろ、この夢、覚めてもいいかな。

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